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独立起業の先輩たちからノウハウを学ぶ#05〈研修講師・経営コンサルタント・ビジネス書作家・大杉潤さん/後編〉30年会社員を続けた人なら、誰でも失敗せずに起業できる!? 「定年後起業」を提唱するビジネス書作家が教える定年後起業の極意とは。

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起業の先輩からノウハウを学ぶシリーズ、今回は1万2千冊以上のビジネス書を読破し、「僕の人生はビジネス書に書いてあることを実践してきただけ」と言い切るビジネス書マニア……もとい、ビジネス書マスターの大杉潤さん(65)から話を聞く後編です。メガバンクから都知事肝いりの新銀行、人材会社、グローバル企業の人事責任者を経て57歳で独立起業した大杉さん。その起業にももちろん、ビジネス書から得たヒントが生かされていました。「会社員を辞めるのは30年勤めてから。そして、30年会社員を続けた人なら、誰でも失敗せずに起業できます」と断言する大杉さんにその極意を聞きました。

起業反対の妻をビジネス書『今すぐ妻を社長にしなさい』で説得

大杉さんが57歳で起業を決めたのも、やはりビジネス書の影響でした。最も大きかったのは、ビジネス書の活用法や裏技を聞いた前編でも紹介した田中真澄さんが言う『終身現役』という考え方でした。「僕自身、どうしても起業する勇気が出ず、ぐずぐずと会社員を続けてしまっていたのですが、57という年齢になって、いよいよやるしかないと決意しました」

先輩起業家Profile 大杉潤(おおすぎ・じゅん)
合同会社ノマド&ブランディング・チーフコンサルタント。日本興業銀行(現・みずほフィナンシャルグループ)に22年間勤務の後、東京都へ転職して新銀行東京の創業メンバーに。人材会社、グローバル製造業の人事責任者を経て、2015年に独立・起業してフリーランスに。新入社員の頃から年間300冊のビジネス書を40年間読み続けて約12,000冊を読破。2013年9月から毎日1冊ビジネス書を読んでブログに書評を書いて公開し、10年間継続して累計3,200冊以上のビジネス書の書評がブログに掲載されている。

ただ、当時下の娘は大学1年生。まだまだ学費もかかる時期とあって、奥さんは独立・起業に大反対でした。ここでも、活躍したのはビジネス書。坂下仁さんの『今すぐ妻を社長にしなさい』という本を手に、奥さんの説得にかかったといいます。

「著者の坂下さんは私と同じく銀行員だったのですが、妻を社長にした会社を作り、生活に必要な様々なものを経費として計上できるようにし、効率的な節税もできたことで、多額の借金を返済できたという経験を紹介した本です。当時妻はパートで働いていたのですが、この本を材料に、妻に経理や財務を中心とした社長業をやってもらえるよう説得しました」

その結果、娘の大学卒業までに必要な費用だけは預金として取り置くことを条件に、妻の賛成を勝ち取ることができたといいます。

「妻が本社機能、自身は営業や納品部門」と役割分担

大杉さんは自身の経験をもとに、まずは経営コンサルタントや、講演・研修の講師として収入を得ようとしていました。その売り上げはすべて妻が社長を務める会社の売り上げにした上で、大杉さん自身は個人事業主として会社から発注を受け、売り上げの半額を受け取るという形にしました。

「大企業にたとえると、経理などの『本社機能』を妻が担い、私自身は講演などの依頼を得るための『営業』部門や、実際に講演を行う『納品』の部門を担当するという役割分担です。その結果、より質の高い製品を納品することに集中できる態勢になりました」

この態勢は、お金の面でのメリットも大きいと言います。「スマートフォンやパソコンといった、事業にも生活にも必要なものを経費で購入できます。会社と個人事業主に分けていることで、より利益が残っているほうで経費計上するといった柔軟な処理が可能になりますので節税の効果も大きくなります」

もちろん、これは夫婦どちらかが専業主婦(夫)の場合。今の時代はもう一工夫必要な夫婦も多そうですが、参考にできることはたくさんありそうです。

「会社員は30年間続けてから起業しなさい」って一体なぜ?

そんなにいいことずくめなら、私も今すぐ独立起業を……と思った読者のみなさん、ちょっとお待ちください。大杉さんは「会社員はできるだけ長く続けた方がいい。できれば30年やってから起業するのがおすすめです」と言います。

理由は大きく分けて三つ。まず、厚生年金の受給資格を得るにはもともと25年間の加入が必要でした。(現在の加入資格は10年以上)。国民年金と厚生年金では受給額が大きく違うため、「まずは厚生年金の受給資格を得てしっかりと金額を確保すること。そして、(加入期間を延ばすことで)できるだけ受給額を増やしておくことが、起業後の生活にとってとても重要です」

二つ目は、年金受給開始までの期間の生活費です。大杉さんは「起業したからといって、月に何十万も手に入るほどの成功を収められる人はごくわずか。毎月5万~10万円入ってくればいい、という心づもりで起業することが重要です。そうなると、退職から年金受給開始までの期間が長すぎると生活が大変になる。何とかがんばって、できるだけ長く会社員を続けるのが、その後の人生にとってとても重要なんです」

三つ目は、30年間勤めることで得られる専門性だといいます。「同じ業界に30年もいたら、どんな人にもその業界についての専門性ができます。それは、後に紹介する起業のための『三つの武器』の最初の一つになります」

大杉さんは、これまでに1万2千冊以上のビジネス書を読破した経験を元に「定年ひとり起業」を提唱し、『定年ひとり起業 生き方編』『定年ひとり起業 マネー編』『定年起業を始めるならこの1冊! 定年ひとり起業』の3冊を出版している。

自身から「三つの武器」を見つけられれば起業は成功

「30年勤めたら誰でも」と言われても、部長や役員になった人ならともかく、自分なんかにそんなスキルがあるんだろうか。5~10万でいいと言われても、それを生み出す起業のタネを見つけられるだろうか……。大杉さんは、そんな心配はまったく無用だと断言します。

「会社で出世する人はゴマすりがうまいだけ。ようするに社長になった人のお気に入りが重役になり、そのうち一番のお気に入りが次の社長になる。それだけのことです。会社という世界では、実績と出世には何の因果関係もないんです。出世していないことと、スキルの有無はまったく別の問題です」

では、仮に30年間会社員を続けたとして、具体的にどのようにして起業のタネを見つければいいのでしょうか。大杉さんは、自身の「三つの武器」を見つけることが重要だと話します。これは、リクルート出身で民間人として初めて杉並区立中学校の校長を務めた藤原和博さんが著書で紹介している「三つの専門性」という考え方を元にした手法だといいます。

「三つのうち一つ目は、30年間会社員を続けたことで得られる、その業界についての専門性です。別に特殊な仕事である必要はありません。世の中全体の中で、100人に1人ぐらいの専門性があれば十分です」。なるほど、たしかに30年間関わった業界なら、世の中全体で100人に1人の詳しさ、というぐらいの専門性は誰もが持っていますよね。

「二つ目は、趣味です。私の場合はそれがビジネス書だったわけですが、別にお料理でも映画でも、犬や猫でも、ゲームでも何でもかまいません。これが好きだ、というものがあれば、それは十分に武器になります」。でも無趣味なんだよなぁという人は、今からでも起業に備えて趣味をつくっておいた方がよさそうです。

「三つ目は、『一つ目の専門性から、できるだけかけ離れたスキル』です。これが実は難しくて、私自身はこれがなかったので、起業した後かなり長い間苦労することになってしまいました」。

「100人に1人」の専門性が三つあれば「100万人に1人」になれる

大杉さんは「これら三つを掛け合わせると、それぞれが100人に1人程度の専門性であっても100×100×100で100万人に1人の存在になれる。100万人といえば、ほぼ同い年の中で自分1人だけというレベルの専門家ですから、絶対にお金になります」と説明します。

大杉さん自身に置き換えて考えてみましょう。まず一つ目の専門性は、長く銀行員を務めたことで得た財務分析や財務戦略のスキルでした。二つ目の趣味は、言うまでもなくビジネス書。そして三つ目の『専門性からかけ離れたスキル』は?

「起業した時点では持っていなかったので苦労したのですが、今自分を分析すると、それは『多彩な発信力』ということになると思います。50歳のとき孫正義さんの本に感銘を受けてツイッターを始め、55歳でフェイスブックとブログ、インスタグラムを始め、60代でYouTubeチャンネルと音声配信「stand.fm」を始めた。60代でこれだけ様々な媒体で情報発信している人は、なかなかいないと思います」

うーん、三つ目、大杉さんが長年かけてやっと手にしたことを考えると、ハードルが高いような気がしてしまいますが。そもそも、何を身につければいいのかもよくわかりません。

「三つ目」の答えはズバリICT 会社員のうちに身につけて

「答えを言ってしまうと、『三つ目』の答えはICTだと思います。私のSNSや動画チャンネルも、結果的にそこで、ネットを使いこなすスキルを身につけることが決め手になると思います。今はちょっと苦手という人も、会社員という立場でいるうちにリスキリングして起業に備えた方がいいです」

最後に、大杉さんから重要なアドバイスを。「以前は副業を禁止している企業がほとんどでしたが、状況はどんどん変わっている。可能なら会社員のうちから副業をやって、月に5~10万稼げるところまで事業を育ててから独立すれば、絶対に失敗しません。65歳からは厚生年金がありますからね」

きっかけがつかめなかったり、勇気が出なかったりで、ついつい会社に残っている人。それ、実は正解だったかもしれませんよ。

元テレビ局アナウンサーでインタビュアーの中村優子さん(写真右)が運営する著者インタビューサイト「本TUBE」に出演した時の大杉潤さん(写真左)。
【前編はこちら】

この記事を書いた人

華太郎
華太郎経済ライター
新聞社の経済記者や週刊誌の副編集長をやっていました。強み:好き嫌いがありません。弱み:節操がありません。

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