コミュニケーション

苫野一徳によるビジネスに役立つ哲学対話ビジネスに哲学を取り入れたら組織力が高まる? コミュニケーションエラーの解消に役立つ 「哲学対話」とは

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ビジネスに役立つ哲学対話とは?哲学対話を会議に導入すると社員とのコミュニケーションが向上できる。部下との関係を変えたい経営者やプロジェクトリーダー必読。哲学者の苫野一徳さんに聞きました。

苫野一徳

プロフィール

熊本大学准教授苫野一徳

哲学者・教育学者。熊本大学大学院教育学研究科准教授。2児の父。早稲田大学大学院教育学研究科博士課程修了。博士(教育学)。
経済産業省「産業構造審議会」委員、熊本市教育委員のほか、全国の多くの自治体・学校等のアドバイザーを歴任。著書は『親子で哲学対話』『子どもの頃から哲学者』(大和書房)、『勉強するのは何のため?』(日本評論社)、『どのような教育が「よい」教育か』(講談社選書メチエ)、『はじめての哲学的思考』(ちくまプリマー新書)など多数。

組織で生産性を発揮できない原因はコミュニケーションエラー?

世界ではすでに注目を集めている「哲学対話」は、古代ギリシャの時代からソクラテスらによって続けられてきた対話方式のことです。この「哲学対話」を学問だけでなく、ビジネスや教育に取り入れているのが哲学者で熊本大学准教授の苫野一徳さん。さまざまな課題を力強く解決するためにも役に立つという「哲学対話」について話を聞きました。

組織やチームがうまくいかない原因の多くは、コミュニケーションエラーと感じている人は多い。


「目標が達成できない」
「成果がでない」
「生産性が上がらない」


生産性や効率の課題を紐解いていくと、「人間関係の課題」であることは経験的、直感的にわかっている人は多いのではないでしょうか。では「人間関係の課題」の原因はというと「コミュニケーション不足」「コミュニケーションエラー」がほとんどと言われています。

だから目標達成のためのビジネススキルとして「伝え方」は常に求められているのではないでしょうか。しかしどんなに伝え方を鍛えても、「響かない・届かない・伝わらない」というジレンマから逃れることができない経営者やリーダーも多い。いったいどうすればこの悩みを解消できるのか?

「哲学対話」は何の役に立つ?

「伝える」は一方的なコミュニケーション

私たちはコミュニケーションの多くを言葉で行います。ですから「言葉を磨く」とさまざまな問題を力強く解決できるようにもなります。哲学対話は、その「言葉を磨く」ことにもとても意義があると思います。

コミュニケーションといえば「伝わる言葉」「わかりやすい文章」「説得力のある言葉」などをイメージするかもしれませんが、哲学対話は少し違います。

1.「共通了解」を見出し合う

「本質観取(ほんしつかんしゅ)」という哲学対話を、私はさまざまなところで多くの人たちとやっています。

本質観取とは、文字どおり、物事の本質を「言葉」にしていく営みのこと。ここで言う「本質」とは、絶対の真理ではなく、それが「それ」と確信される本質的な条件のことです。たとえば、「教育」と「訓練」では、意味しているものが少し違っています。では私たちは、何をもって「これは教育」で「これは訓練」だ、と感じるのでしょうか。

それを対話を通して発見し「言語化」する。これが「本質観取」です。ですから「伝わりやすい言葉」や「わかりやすい文章」で誰かが誰かに一方的に伝える、説得するということとは少し違います。

社員やチームメンバーとのコミュニケーションエラーに悩む人にとっては、一方的に「伝える」よりも「共通了解」を見つけ出す力が重要かもしれません。そのためには「本質観取」の経験がとても役に立ちます。

2.部下と対等に話ができる

私はよく経営者の方々とも本質観取をやっています。


これまで、多くの経営者の方から、「部下と以前より対等に言葉を交わせるようになった」という言葉をお聞きしてきました。一方的な指示命令をする以上に、部下の話を聞けるようになり、一緒に答えを見つけていくマインドができたということでした。そうすると、よりクリエイティブな発見もたくさんできるようになったと。

哲学対話で成果を出すコツ

1.答えを共に見つけ合う

哲学対話では、参加者がお互いを尊重し、聞き合う姿勢を持つことが大事です。その上で、「何か絶対に正しいものがあるわけではなく、みんなで一緒に納得できる答えを見つけ出し合っていく」というマインドを共有することが重要です。参加者はみんな対等な立場です。あらかじめ正しい答えがあるわけでも、誰かが答えを持っているわけでもない。誰もまだ答えを知りません。だから、「一緒に答えを見つけ合っていく」ことに価値があるわけです。

2.ファシリテーターの役割

多くの企業でも本質観取をしてきましたが、慣れるまでは、私のような社外の人間がファシリテーターをやった方がいいように感じています。社内の人がファシリテーターをやると、どうしても権力関係があったりして、対等な対話の場になりにくいので。社外のファシリテーターなら、ここでは誰もが対等な対話の参加者であるという場づくりができます。

哲学対話を成功させるためのコツ

1.安心できる場を作る

ファシリテーターは、参加者が対等な立場で、安心して自由な意見を発言できる場を整えることを意識しましょう。

2.みんなでテーマを決める

テーマの基本は、意味や価値です。大きく次の3つの類型があると思います。

  1. 感情:懐かしさ、不安、恋、嫉妬など
  2. 事柄:教育、政治、経営、信頼、企業、芸術など
  3. 価値:よい教育、美、正義、道徳など

テーマを決めるときも、みんなで話し合って決めるとよいでしょう。


より実践性が高めのテーマもあります。例えば「わが社の企業理念の本質は?」など。チームとして何を大事にしていけばよいかの共通言語を見つけ出すことができるでしょう。

3.体験に即して考える

哲学対話では、参加者が知識をひけらかすのではなく、自分自身のさまざまな経験を振り返りながら対話することが重要です。本質観取は絶対的な真理を見出すものではありません。あくまでも、お互いの「確信」を投げかけあうことで、「共通了解」に辿り着くことを目指すものです。本質観取をやるためには、参加者はまずそのことをしっかり理解し共有する必要があります。

哲学対話の進め方

本質観取の進め方は、簡単に説明すると以下のようになります。

この記事を書いた人

I am 編集部
I am 編集部
「好きや得意」を仕事に――新しい働き方、自分らしい働き方を目指すバブル(の香りを少し知ってる)、ミレニアム、Z世代の女性3人の編集部です。これからは仕事の対価として給与をもらうだけでなく「自分の価値をお金に変える」という、「こんなことがあったらいいな!」を実現するためのナレッジを発信していきます。

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