Q&A 普段、聞けないことを聞いてみましたITの達人と哲学者も悩む?「テクノロジーは人間を幸せにするのか」
5年先を行く生き方をする尾原和啓さんと絶望から哲学を学んだ苫野一徳さん。異色の対談イベントでは深い質問が飛び交いました。レアで貴重な二人の答えをどうぞ。
プロフィール
フューチャリスト尾原和啓
左が尾原さん、右が苫野さんで作成しました。
目次
尾原和啓流「ネットワーク」とは?
Q1 尾原さんのネットワーク(繋がる力)の調整力は、自ら発信されてきたものなのでしょうか、それとも出会う人のことを知りたい気持ちが強いのでしょうか。
僕の場合、多動症なので、新しいところに行かなければ生きていけないという側面があります。新しい場所に行くということは、新しいものと繋がらなければ生き残れないので、とにかく新しい場所に行って生き残る、ということが僕の最初の試練でした。でも、結局繋がるということには、失敗がないんです。
失敗ではなく、ただ単にタイミングが合わなかったというだけのことだから。
例えばある人に自分が面白いと思うものをプレゼントしたけれど、受け取ってもらなかった。でもそれは失敗ではなくて、たまたまタイミングが合わなかっただけなんです。
間違いは誤っているわけではなく、たまたま間が合わなかった、タイミングが違っただけだと考えればいい。
そうやってどう間が違ったのかを修正する能力を得ることで、繋がる力が強くなってきたんだと思います。
みんな繋がることに失敗すると、自分がダメだという不安で動けなくなる人が多い。だからこの不安を減らすことが大事だと思っています。これさえなくなれば結構楽しいんですよね。だからいかに早くそこに気づけるかが重要だと思います。
いや、面白いですね。いつも自分を否定ばっかりしてしまう。何か間違ったら自分が悪いと思いがちですが、お互いの間が違っているだけなんだと考える。その考え方がインストールされているだけで、ずいぶん楽になりそうです。
「知の高速道路」の乗らずに生きる方法は?
Q2 将来「知の高速道路」に乗らなくても、山道ぼちぼち歩いても衣食住に困らず幸せに暮らしていく生き方は残っているでしょうか?
もうそれができる時代になっているんじゃないかな。別に知の高速道路に乗りたい人は乗ればいいし、いろんな生き方があるよってことだと思いますが。
今はテクノロジーのおかげで、どんな場所に住んでも繋がることができるわけです。だから生活コストを維持するための場所と、働くための場所を持っていれば、労働と仕事と活動の場所を変えられるから、より柔軟になる気はします。僕もコロナが流行する前のバリ島では、月 10 万円あれば、めっちゃ贅沢な暮らしができましたから。
それはうらやましいなと思っていました。でも、振り返ってみれば、自分もなかなかいい環境のところにいるわけですよね。
教員がヘッドハンティングされる時代は来る?
Q3 どうすれば優秀な教員がヘッドハントされるような世の中になるでしょうか。
先生が本当に人を育てるということに向き合うということだと思います。どうしても今の教育では、「言われたことを、言われたとおりにやりなさい」というモデルで、学校システムが続いてきています。でも本当は子どもたちが自分の力で自由に生きられるような、そんな教育をどうしたらできるか、ということを本気で考えて、できるところから実践していく。ちゃんと勉強をして、学んで実践していくことで、「自分の価値は他のところでも通用する」と気づくのではないかと思います。
少なくとも会社側は、さっき言ったようにリモートがメインになったことで、“上司が目の前にいて圧力をかけるから生産性が上がる”という時代が崩壊してしまったので、需要側は明らかに喉が渇き始めている、と個人的には思いますけれど。
もうすでにそういう意味で、優秀な先生方というのはいろんなところに飛び込んで、企業研修をやったり、ご自身で起業したり、新しく学校を作ったりと、様々な試みをやられていますよね。そういう時代になってきているなという感じがしています。
資本主義の限界でベーシックインカムは有効?
Q4 不安を煽りすぎず、資本主義からの脱却を図るためには、ベーシックインカムの導入が有効だと思いますが、おふたりはどのように考えられますか?
今、ヨーロッパなどでも社会実験が行われているので、どんどん検証していったらいいんじゃないかと思います。
ベーシックインカムの話をすると、人間がレイジーになるという批判があります。つまり、ベーシックインカムを行うとそれに甘えて、怠けるようになるのではないかと。でも、これまでいろんなところで行われてきた実験を見ると、そうじゃないらしいということが分かってきました。
例えばホームレス対策に今まで何億円もつぎ込んできた自治体が、ホームレスを対象に一律にベーシックインカムを行なった。すると、対策につぎ込んだよりも少ない額で、ホームレスたちは職を持つようになったという話があるそうです。もらったお金を、自分の職業スキルを上げるための投資にして。
つまり、人はみな好き好んで自堕落にしているわけではなく、条件が整えば、自分はより価値のある人間でありたいと思うもの。だからこそ、それを応援する条件を整えることが重要だということなんです。
「今の若者は海外に行かずに後ろ向きだ」と言う人がいますが、経済がこんな状態だったら当たり前の話ですよね。
失敗したら終わりだとも考えると、さらに腰が引けますし。
きっと先立つ物があれば、チャレンジしようと思う人も増えるでしょう。そういう意味で、私はベーシックインカムはアリなんじゃないかと思っています。
まず大前提として、テクノロジーは生きるために必要なコストを、どんどん限界費用で下げていきますし、AI が人の仕事を奪うという言い方をされますが、基本は“置き換える”ということなんですよね。それによって、AI が放っておいても付加価値を作ってくれるので、基本的にはベーシックインカムの原資を、AI とロボットが作ってくれるというのが、20 年、50 年スパンで考えたときに起こる。そういう意味で、ベーシックインカム的なものが、資本主義の暴走を止めると考えられます。
また、ベーシックインカムのもうひとつの効用が、社会資本の可視化だと思っています。なぜ暴走が起こるかというと、一回性のゲームだからという説があります。
例えば今、中国のタクシーはめちゃめちゃ礼儀正しいんです。以前は乗ると勝手にメーター回されて高い金額を請求されたり、変な土産物店に連れて行かれたりという話も聞きましたが、それは一回性だったから。要は「二度とこの客を乗せることはないだろうから、こいつから奪うだけ奪ってやればいい」と考えたからです。
でも、今はネットで可視化できる時代だから、一回性の考えでは成り立たなくなっているんです。Uber やメルカリでもスコアがついて、この人は信頼できるかが見えるようになっていますよね。そうやって社会資本を可視化することで、一回性のゲームによる暴走を繋ぎ止める効果があると思っています。
「三方良し」に必要なものは?
Q5 「三方良し」へ向かう哲学、あるいは経済の第一歩みたいなものは何だとお考えですか?
今まで二酸化炭素を使いまっくたり、無理難題を下請けに押し付ける企業など、経済学でいう外部不経済がまかり通ってましたが、ネットによって繋がりが可視化されてくることによって、「三方良し」になっていくと思います。個人的にはネットの効果は大きいのではないかと考えていますが。
なるほど。私はものすごく大雑把に言うと、みんなでもっと市民になって行こうということですね。やはり過当競争にまみれるということは、市民性が成熟していないということ。なぜならこの社会をよりよくするのは、私達一人ひとりで、他の誰でもないわけですから。
社会という確固たるものが元々あって、それがあてがわれているもののように私たちが思っていると思っていると、いつまでたってもよい社会は作れません。
今まで質の高い教育を受けることができなかった人たちも、どんどんネットで学べるようになったり、社会について考えたことのなかった人たちが、「もっとよい社会をみんなで作っていこうよ」と言うようになったら、大きくドライブがかかるだろうなと思います。
自分らしく生きるための自己理解
Q6 どれだけ自己理解が進んでいるかが、自分らしく生きるための一つの条件だと思うのですが、どうでしょうか?
最近、欧米では多動症や自閉症、学習障害のことを、ニューロダイバーシティと言うように変わってきています。
元々自閉症というのは障害ではなく、あくまでスペクトラムなんです。もっと言えば、脳みそって一人ひとり作りが違うから、何が好きで、何が苦手で、何の刺激に過敏に感じるかなど、多様性に満ちているわけです。
今はこのニューロダイバーシティに向けた教育を作っていくことが、ビジネス的に美味しくなってきている。まぁ、この“ビジネス的に美味しい”という言葉が、ものすごく資本主義的になってしまうんですが、さっきの三方良しの考え方を使えば、そのビジネスよにって社会もハッピーになるわけだし。僕みたいな多動症の方でも、間隔が鋭敏な方でも、自分に合った教育が受けられる三方良しが生まれるということは、とても大事だと思います。
私も一言。自分らしく生きるための自己理解、自己了解というものは大切だと思いますが、“らしさ”というものも文脈依存的だということを意識しておいた方がいいと思うんです。能力って個人に帰属するものだと我々は思い込まされています。でも、誰と組んだときに自分の能力が発揮できるが、こういう人とこう組んだら時分の能力がズタボロにされる、というケースもあります。
こういったことも含めて、単に個人に帰属するのではなく、自分を生かせる環境ってどういうものなのかを含めた上で、自己理解を深めていくようにした方がいいんじゃないかと思います。
*これは 2022 年2月に I am で行われた対談イベントを記事にしたものです。
〈著書紹介〉
〈尾原和啓×苫野一徳 特別対談〉
取材/I am 編集部
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この記事を書いた人
- 「好きや得意」を仕事に――新しい働き方、自分らしい働き方を目指すバブル(の香りを少し知ってる)、ミレニアム、Z世代の女性3人の編集部です。これからは仕事の対価として給与をもらうだけでなく「自分の価値をお金に変える」という、「こんなことがあったらいいな!」を実現するためのナレッジを発信していきます。