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利尻昆布のブランディング。趣味から副業にした大路幸宗さん1次産業はきついだけじゃない。実は儲かるビジネスだった?

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きつい、過酷、稼げないのが一次産業。実は一次産業は日本に残された数少ないブルーオーシャンかもしれない?

悪く言えば斜陽産業、よく言えばブルーオーシャン?

日本の農産物需要が1兆円超

一次産業=「きつい」「過酷」「稼げない」をイメージする人は多いかもしれません。

下のグラフのように、一次産業(農業・漁業・林業)の就業者数は激減しており、高齢化、後継者不足が深刻化しています。

*「産業別就業者数の推移」1951年~2021年/独立行政法人 労働政策研究・研修機構

では、日本では一次産業の未来はないのでしょうか?

と言うと、そうとも言えない。農林水産業によると、2021年の農林水産物・食品の輸出額が過去最高、初の1兆円の大台を突破、1兆2,385億円に。

北海道産ホタテの輸出は2倍以上

ちなみに、輸出額の増加が最も大きかった品目は「ホタテ貝」で前年の2倍以上に増加したそのこと。きついイメージの一次産業ですが、一方で日本の特産品は世界から高く評価されています。

地球規模の人口増加で世界各国は一次産業が増加傾向にある中、日本は横ばい・低下という現状。つまり、今後一次産業は確実に伸びる領域なのに、日本においては斜陽化というパラドクス。さらに日本の農産物は世界では高い評価を得ていることを考えると、一次産業はブルーオーシャンと言えるのではないでしょうか?

デパートの物産展に並ぶ美味しい海鮮、肉、野菜、果物を思い出してみるといいかもしれません。考えてみると日本の安心安全な食材は非常に価値が高い。

未経験でもできる一次産業の始め方は?

現地に行って人に出会う」のが近道

でも、畑も山も船も持ってないし、経験も人脈もないのに、今からどうやって一次産業に参入すればいいの?

北海道・利尻島の昆布の可能性に情熱を注ぎこんでいる大路幸宗さんは、学生時代から日本の離島めぐりが趣味で、日本、海外問わず、あちこちを周遊し、地元の人とのコミュニケーションの中で、地場の美味しい食事、食材、特産品などに触れてきました。

大学卒業後、三菱商事に入社。社内ベンチャー企業に出向しスマート農業に携わります。

そして休暇で訪れた利尻島で、利尻昆布と運命の出会いを果たすことに。

大路幸宗

「この激レア、日本のお宝昆布を日本中に! いや世界に!」

という想いから、利尻昆布の布教活動を始めます。

出向していた社内ベンチャー企業が副業可能だったこともあり、本社へは戻らず転籍の道を選ぶことに。

現場の課題が何かを理解する

なぜ利尻島にも漁業にも縁のなかった大路さんが、利尻昆布を副業にできたのか。それは漁師・小坂善一さんとの出会いがあったから。

滞在中、過酷な一次産業の現場を目の当たりにします。そこで小坂善一さんとタッグを組み、利尻昆布のブランディング、販路開拓を副業でスタートさせたのです(現在は法人化)。

しかし、利尻昆布の希少性やブランド力を広める以前に、手作業での昆布干しの人員確保に毎年頭を抱えるという課題が浮かび上がったのです。

「朝3時に起きて、3メートルもある昆布を手作業で干すんですよ。昆布って乾いてないとめちゃくちゃ重いんですよ」

大路幸宗

重労働なうえ、海の男たちの現場は荒めなこともあり、バイトに来ても二度と戻ってくることはなく、毎年新たに募集し、人間関係を築かなければならないという状況でした。

そこで、母校の京都大学の恩師に相談、京都大学の学生から昆布干しのバイトを募りはじめました。昆布干しというレア体験からか意外にも人気を博し、毎年数十名を面談して採用、3週間の昆布干し体験バイトを開催。

収穫した昆布の一部は、漁協から買い戻し、京都の料亭などに売り込み、その価値を広める活動を行っています。

副業のため、昆布干しの3週間は、自ら利尻島に行き、毎朝3時から昆布を干して、9時からリモートで本業というハードワーク。しかしそれが「辛いと思ったことは一度もないですね。むしろ楽しい」と言う。

副業収入は現物支給でも、収益多様化は可能

部屋にどんどん利尻昆布が積み重なる

肝心の副業の収益はというと、実は報酬は現物支給で「利益はまだありませんが、利尻昆布が部屋にどんどん積み重なっています!」とのこと。

それでは副業ではなくただのボランティアか趣味では? しかし、収益の多様化によってトータルとしては副業として成り立っていると言います。

副業が新たなビジネスを産んで収益化

地道な活動と地道な地元の人とのコミュニケーションが功を奏して、地元自治体からコンサルティング契約のオファーがあり、さらにお隣の礼文島からも。今では北海道以外の自治体や企業からの依頼が増えてきたといいます。

まだ利尻昆布では稼げていないけど、周辺で新たなビジネスが生まれるという思わぬ副産物も。

誰もやりたがらないから、大きなビジネスチャンスがある

でも、その視線の先には、世界遺産にも指定され、海外からも熱い注目を浴びる和食に欠かせない日本の「だし文化」そのものをパッケージにして、利尻昆布を世界の富裕層に広めていくという大きな目標が。

大路幸宗

利尻には昆布だけでなく、ウニやアワビといった高級食材が年間を通して収穫できるのも魅力。

特に、利尻のウニは利尻昆布を食べて成長するため、国産のウニの中でも比べ物にならないほど美味しく価値が高い。

高級利尻昆布を食べて育った超高級利尻ウニ、という贅沢の連載が一次産業の荒海で繰り広げられているのです。

しかし「豊かな漁場の利尻でも年々、昆布の漁獲量は減少してきています」と大路さん。それだけ、利尻の食材の価値が高まるということでもある。

コロナ禍でインバウンド需要は落ち込んではいるが、海外からの日本の高級食材への関心は高まる一方。「利尻昆布を世界遺産に認定された和食の「だし文化」というパッケージで世界に向けて発信したい」と語る。

誰もやりたがらなかった一次産業に足を踏み入れたからこそ、「稼げる」ビジネスモデルを構築し始めたのかもしれません。

2022年1月には自身の法人も立ち上げた。

写真/大路幸宗氏提供

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記事はコチラhttps://iam-iam.jp/1532/

この記事を書いた人

長谷川恵子
長谷川恵子編集長
猫と食べることが大好き。将来は猫カフェを作りたい(本気)。書籍編集者歴が長い。強み:思い付きで行動できる。勝手に人のプロデュースをしたり、コンサルティングをする癖がある。弱み:数字に弱い。おおざっぱなので細かい作業が苦手。

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