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「研究室が片づかない!」研究職30年のキャリアを活かして研究現場の整理収納専門家に

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研究室の片づけに悩んだ経験から整理収納アドバイザー資格を取得し、副業として活動を始める。そのノウハウを本にし研究環境改善への道を切り拓いている。

「研究室が、どうしてこんなにも片づかないのか」。

これは、正保美和子さんが長年抱えていた、そして今や多くの研究者にとっても共通する“問い”だ。

正保さんは1983年に筑波大学生物学類を卒業後、製薬会社の研究員として30年勤務。その後、医学部大学院の研究室へ転職し、現在は国立の研究機関に所属している。研究一筋のキャリアの中で、彼女がふと立ち止まったのが、「研究室の散らかり」だった。

「実験室には長年使われていない試薬や書類、壊れた機器が平然と残っていたり、誰のものかわからない私物が棚を占拠していたり…。とても効率的とは言えない状況が日常的にありました」

それでも、誰も声を上げなかった。整理整頓は“研究の本質”とはされず、属人的なタスクのまま放置されがちだったという。

整理整頓のプロセスは研究と同じだった

転機が訪れたのは2017年。正保さんは「整理収納アドバイザー」の資格を取得する。

「研究と同じで、現状を観察・分析し、計画を立てて改善していくというプロセスが、私の性格や経験に合っていると感じたんです。しかも、研究室の課題と直結していました」

やがて、研究室の整理収納について綴ったブログをきっかけに、講演の依頼が舞い込む。ここから、彼女の副業がスタートする。

「いきなり講演料が7万円で驚きました(笑)。でも、これは自分の“好き”と“得意”を活かせる仕事になるかもしれないと手応えを感じたんです」

以降、正保さんは整理収納アドバイザーとして、研究室の片づけ支援やセミナー講師、記事執筆などの活動を展開。本業の実験の合間を縫い、副業に取り組んできた。

「ラボを整える」は「人をつなぐ」こと

研究室を片づけるという行為は、単に物を減らすことではない。正保さんが向き合ってきたのは、「コミュニケーションの設計」でもある。

「ある教授に“モノだけじゃなく思考の整理ができた”と言っていただけたのが、とても印象に残っています。研究室は多様な人が集まり、価値観も働き方も違う。だからこそ、“なぜ片づかないのか”“どうしたらみんなが気持ちよく使えるか”を一緒に考えていく必要があるんです」

誰かの“正しさ”を押しつけるのではなく、みんなの“快適さ”をすり合わせていく。彼女はそのプロセスを、「片づけを通じた対話」と表現する。

「ラボ整理」への想いを込めた本からさらなる広がりが

こうした現場での知見と実践をまとめたのが、2023年に出版された『ラボ整理コミュニケーション術』だ。
研究室という特殊な職場環境において、なぜ整理が必要なのか、どこから手をつけるべきか、誰とどう関わっていくべきか――をわかりやすく解説した本である。

「“片づけ”のハウツーだけでなく、“なぜうまくいかないのか”という背景や人間関係にも踏み込んで書きました。一人でも多くの方に、研究の時間をもっと有意義にしてもらいたいという思いが込められています」

インディーズ出版だが、さまざまなイベントで実際の読者と交流、本当に必要とする人が確実にいると実感、草の根で広がりを見せているという。発売から2年経つが、一定のニーズがあり手応えを掴んでいる。

「副業だけど、実は本業のヒントだらけ」

本業と副業、2つの仕事をどうバランスさせているのかと尋ねると、正保さんはあっさりと言う。

「どちらも“研究”だと思っています。実験の現場も、整理収納の現場も、“観察して、考えて、手を動かす”というプロセスは同じなんです」

また、副業を通じて得た気づきが、本業にもよい影響を与えているという。

「副業を始めてから、文章を書く機会が増えました。研究の報告書も、少しだけ伝え方が変わったかもしれません」

「片づけ」を通して、未来の研究環境を整える

正保さんが今後力を入れていきたいのは、「研究現場の整理収納」を体系化し、広く普及させること。そのための講演や記事執筆、研究者コミュニティとの連携にも積極的だ。

「“こんなニッチな分野で、誰が読んでくれるだろう”と思いながらも、書籍を出したことで新しい出会いや反応がありました。自分の経験が、誰かの助けになるなら、やってみてよかったと思えます」

研究成果を最大化するための環境づくり。その一歩は、目の前の「片づけ」から始まるのかもしれない。
そしてその一歩を、誰かの代わりにではなく、一緒に歩む存在として、正保美和子さんは今日も静かに現場に立っている。

この記事を書いた人

I am 編集部
I am 編集部
「好きや得意」を仕事に――新しい働き方、自分らしい働き方を目指すバブル(の香りを少し知ってる)、ミレニアム、Z世代の女性3人の編集部です。これからは仕事の対価として給与をもらうだけでなく「自分の価値をお金に変える」という、「こんなことがあったらいいな!」を実現するためのナレッジを発信していきます。

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