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勝手に自分を追い詰める8つの「考え方のクセ」とは? 「認知のゆがみ」を知るだけでメンタルがラクになる

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マサチューセッツ総合病院の小児うつ病センター長であり、ハーバード大学医学部准教授・脳神経科学者の内田舞氏が、「認知のゆがみ」を脳神経学的に解き明かし、心のケアの助けになる思考法を伝える。

内田舞

プロフィール

内田舞

小児精神科医、ハーバード大学医学部准教授、マサチューセッツ総合病院小児うつ病センター長、3児の母。

ネガティブ感情は「脳」の受け止め方

まったく同じものを目にしたり耳にしたりしても、それをどう捉え、どんな感情になるかは人によって異なる。

 忙しくストレスフルな日々に追われながらもなんとか頑張る人に向けて、日常づかいのセルフケアの方法や思考法をまとめた書籍『まいにちメンタル危機の処方箋』の著者である内田舞氏の研究でも、外的な刺激に対する脳の反応が人それぞれ違うことが実証されているという。

 内田氏のグループによる研究では、ファンクショナルMRI(fMRI)という脳内のどの部分が盛んに活動しているかを測る技術を使って、被験者の子どもたちに様々な表情の顔写真を見てもらうという実験をおこなった。

 写真の中には、ニコニコした表情や、悲しそうな表情、怒った表情、またとくにポジティブでもネガティブでもない中立的な表情のものもあった。すると、どんな表情を見ても同じ脳の反応を見せたグループと、ネガティブな表情に対して「感情を生み出す」部位である扁桃体の活動がグッと上がるグループとがあったという。

 こうしたネガティブな表情に強い反応があった子どもたちは、うつ病の遺伝因子を持ち、日常生活の中で、誰かに怪訝な顔で見られたり、誰かのイライラした表情を見たときに、自分の感情が影響されやすくなるという。

「認知のゆがみを知る」のワークシート

認知のゆがみを把握する

このように、脳の認知の仕方には個人差があることが認められているが、なかには、「認知のゆがみ(distortion/ディストーション)」と言われる、現実をゆがめて認識してしまうほどの考え方・捉え方のクセのようなものが存在する。

 認知のゆがみがよいほうへ働くことがまったくないとは言わないものの、これが無意識に働きストレスの原因となっていることが、現実的にはよくある。その正体を明かしておくこと、つまり、様々なタイプのディストーションを知り、自分がそれにとらわれていないかを知ることができれば、必要以上の精神的な負担から解放されることにつながるはずだ。 これから紹介する「認知のゆがみ」のパターンに、自分が当てはまるものがないか考えてみてほしい。

①ゼロヒャク思考

 物事を「0か100か」という極論のみで考えてしまう思考スタイル。「全か無か思想」ともいわれ、完璧主義の人がなりやすい。「白黒つけないと気が済まない」「失敗したら何もかも意味がない」というように、二者択一の思考パターンに陥ってしまう。

②過度な一般化

 たった一つの出来事から、すべてのケースにおいてそうだと思い込み、結論づけてしまうディストーション。仕事で資料作成のミスをしたときに「自分は何一つ仕事ができない」と自己嫌悪に陥ってしまったり、試験に一度落ちただけなのに「自分は、試験というものには受からないんだ」と悲観的になる。

 もう少し広い視点で見てみると、アジア人に何か嫌なことをされたことがあったときに、「アジア人は全員嫌な奴だ、アジア人が憎い」と結論づけたりするのも、過度な一般化の危険な一例。

③ネガティブ“だけ”を見る

 物事にはよい面と悪い面の両方があるはずなのに、悪い面ばかりに目がいく、というディストーション。一般に「マイナス思考」と言われるものがこれにあたるかもしれない。100点満点のテストで80点をとったときに、「80点もとれた!」と思うだろうか、それとも「20点分も間違えてしまった」と思うだろうか。

④良いところを認めない

ポジティブな出来事や結果を否定・軽視する考え方のクセ。人から褒められたり、「あれはよい経験だったよね」と声をかけられたりしたときに、「いや、でも…」と、つい否定的な言葉で打ち消してしまう傾向が、とくに日本人には多いのではないだろうか。

 他のケースをあげると、面接に受かったときに「質問が簡単だったから」「それほど大事な面接じゃないから」とか、人に優しくされたときに「ビジネスの都合上親切にされただけ」などと、ポジティブな出来事の価値を自分で下げにいってしまう。

⑤論理の飛躍

目の前の現実から根拠もなく飛躍して、悲観的な結論に結びつけてしまうのが、「論理の飛躍」だ。その中には、「心の読みすぎ」や「勝手な未来予知」と呼ばれる飛躍の種類がある。

「心の読みすぎ」は英語ではmind readingと呼ばれるもので、相手の胸の内を勝手に推測してしまうことから始まる。他人のことはわからない、という基本原則から離れてしまうわけだ。遠くで友人たちが笑っているのを見たときに、何の根拠もなく「きっと私の噂をしているんだ」と感じたり、遊びの誘いを断られたときに「私が嫌われているからだ」と思ったりすることがあげられる。

「勝手な未来予知」は、脳神経学的にはfortune tellingと言われ、一般には「占い」や「予言」を指す語彙でもある。

 宿題で問題を一つ間違えた → 今度のテストで赤点だ → 受験も落ちるに違いない → 進学できないし、将来何の仕事にも就くことができない → 孤独で不幸な人生を送るに違いない…

このように、周囲の人から見れば「どこの占い師なの?」というツッコミが入りそうな思考法(英語で、「ほらまたfortune tellingしてる!」のような言い回しも存在する)。

⑥個人の問題化

何かの出来事や他人の言動や行動を、自分個人の問題や責任に落とし込んでしまう。機嫌の悪い人を前にして「自分のせいだ」と考えたり、たまたま挨拶をされなかったときに、相手が気づいていないだけかもしれないのに、「自分が嫌われているからだ」と考えたりする。

 またよくあるのが、「私が応援すると負けるから観戦しないようにする」とか、SNSの誰かの投稿に対して「これ私のことを言ってる!」と考えたりするのも、この認知のゆがみの一例だ。

⑦「すべき」「あるべき」思考

「こうすべき」「こうあるべき」という考えが強すぎると、第三の道を模索するという柔軟な対応ができず、本来の目的から遠ざかってしまうことがよくある。自分に対してだけでなく、この思考が他人に向けられると、自分の(勝手な)期待と異なる他人の行動・言動にイライラすることになる。

 また、「男なら泣くな」「女性はつつましく」といった、はっきりと有害な「べき思考」に自分がとらわれていないか自戒が必要だ、と内田氏は指摘する。社会で共有されている固定観念や自分の個人的な経験から獲得した信念が他人を不当に苦しめている可能性も、いつも頭に入れておきたい。

⑧感情的な理由づけ

 真実を知ろうとするときに、自分の感情を最も重要な証拠としてしまう認知のゆがみ。客観的な事実がないのに、自分の感情自体を“事実を裏付ける証拠”としてしまう。たとえばピアノの発表会の前にナーバスな気持ちになっているときに、たまたま先生や家族が話しかけてこなかったときに、「私が失敗すると思っているからだ」などと、ややアクロバティックな結論づけをしてしまう。

「ただし、他人の態度などに違和感を感じたときに、必ずしも『これは感情的な理由づけで、私の思い違いだ』と考える必要はありません」と内田氏は言う。

「たとえば、上司が自分にだけ厳しい態度をとっていたりして、『なんか、私への対応が変』と感じたときには、その感覚が当たっていることも多くあります。とくにその相手が自分より上の立場にあった場合、そうした理不尽な態度も『あなたの思い違いですよ』と、下の立場の人の感じ方のせいにしてしまう例も多いので、感情的な理由づけによって決めつけない努力をしつつも、無理にその直感を否定しないでほしいとも思います」

クセを知って軌道修正を

 さて、ここまでで自分がよくやってしまいがちな「認知のゆがみ」はあっただろうか。自分の傾向を把握しておけば、「またあの考え方のクセが出ているから、気をつけよう」と、悪いほうへ向かわないように方向転換することもできる。

 その都度、軌道修正できれば、感情の波も小さく抑えやすくなるはずだ。

この記事を書いた人

I am 編集部
I am 編集部
「好きや得意」を仕事に――新しい働き方、自分らしい働き方を目指すバブル(の香りを少し知ってる)、ミレニアム、Z世代の女性3人の編集部です。これからは仕事の対価として給与をもらうだけでなく「自分の価値をお金に変える」という、「こんなことがあったらいいな!」を実現するためのナレッジを発信していきます。

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