脳内科医が教える「老人脳」の癖。頑固ジジイになるのは脳のせい。簡単な解決法とは?
生きていれば悩みごとはつきませんが、その多くは“執着”から生じるそうです。では、執着の正体とは何なのでしょうか? 加藤プラチナクリニックの加藤俊徳院長に教わります。
プロフィール
脳内科医加藤俊徳
この世に生きていて、悩みがまったくないという人は、ほとんどいないでしょう。大半の人は、何かしら悩みを抱えて生きていますが、多くは“執着”から生じると説くのは、加藤プラチナクリニックの加藤俊徳院長です。『悩みのループから解放される!「執着しない脳」のつくり方』(大和書房)の著者でもある加藤俊徳院長(加藤プラチナクリニック)が、執着が生まれる仕組みと抜け出すヒントを教えます。
目次
脳はラクできるから人は執着する
「あの人に言われたイヤなことがずっと忘れられない」
「別れた恋人や亡くなった人のことを何度も思い出してしまう」
といった、心にはりついて離れない感情を“執着”と呼びます。
心が消耗するだけなのに、執着をやめたくても、なかなかやめられないのはなぜだと思いますか?
実は、脳の働きという観点では、執着をしているとき脳はラクをしているのです。
まず、記憶と学習の仕組みから説明を始めましょう。例えば、あるゲームを初めて遊ぶ場合を考えてみます。最初は要領もわからず全然うまくいきませんが、繰り返していくうちに上手くなっていき、やがて苦労せずにクリアできるようになります。
これを脳の働きに置き換えると、最初は脳のどの部分を使えばいいかわからず、ムダに血流を上げ、エネルギーを大量に消費します。そして、その割に成果は限定的です。ですが、頑張って継続していくと、脳が使う部分が明らかになってきます。そうなれば、血流を上げなくても、効率的に成果を出せるようになります。
このとき、脳は快感を覚え、繰り返したくなるのです。これが学習の仕組みですが、執着も同じコースをたどって生じます。脳がラクに働きやすいかどうかで、執着の対象を見つけます。
執着する内容は、善悪を問いません。大量殺戮を命じるほどの専制権力を持つ者が、一度手にした権力を手放さない(執着する)のも、権力を持ち続けたほうが脳はラクだからです。DVを受けた人が、絶えずビクビクしているのも一種の執着です。脳が暴力を受けた思い出を再生しやすいからです。
脳の執着には善悪がない
世の中で執着を持っていない人はおらず、すべての人間は執着のかたまりであるとも言えます。
一方で、大半の人は「自分が何に執着しているのか」に気づかないまま生活を送っています。そのせいで人生に困りごとが増えても、自覚してないことが多いのです。
悪い執着の代表格は「頑固ジジイ」
例えば、「頑固ジジイ」と呼ばれる人たちは、「人の話を聞かない」「自分の主張を押し付ける」といった共通点があります。「自分が正しい」という考えの執着が、そうさせているのです。
子供の頃から褒められた経験がないまま育った人は、褒められることに執着しがちです。それで、少し注意されたぐらいで「自分なんてどうでもいい人間なんだ」と自暴自棄に陥りやすくなります。
自分の執着に気づくことで、そこから抜け出せる可能性があります。一例を挙げましょう。父親の愛情を知らずに育ったAさんは、何かよい出来事があってもすぐに過去のイヤな経験を思い出し、素直に喜ぶことができませんでした。そこで私は、(一部割愛しますが)次のような言葉をかけました。
「自分ではどうにもできない過去の記憶に縛られ、『自分に幸せになる権利はない』『自分は家族を持てない』などと思う必要はありません。AさんはAさんのままで幸せになることはできるんです」
これを聞いて、Aさんは少し気持ちがラクになったようでした。
良い執着の代表格は「老化防止の脳トレ」
実は、執着がほとんどないというのも問題になることがあります。
認知症の患者さんは、現在の出来事に対して脳が反応しにくくなっています。それで、日常生活を送るのが困難になったり、散歩の途中で迷子になったりなど問題が起きます。
脳科学的に見れば、現在の出来事に「執着できなくなる」状態ともいえます。
認知症でなくても、年齢を重ねれば執着を失っていくものです。しかしこれは、生きることへの執着を失っていくという意味でもあります。
なので、ある程度の年代に入ったら、「執着を自分のほうに奪い返す」という意識も重要になるでしょう。執着をこの世を生きる力に変えていく姿勢です。
「これ以上衰えたくない」と考え、計算ドリルに取り組んだり散歩をしたりするのは、好ましい執着をつくっていると言えます。自力でつくるのが難しい場合、周囲の人たちが適切な執着の対象を作るようサポートするとよいでしょう。
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この記事を書いた人
- 都内出版社などでの勤務を経て、北海道の老舗翻訳会社で15年間役員を務める。次期社長になるのが嫌だったのと、寒い土地が苦手で、スピンオフしてフリーランスライターに転向。最近は写真撮影に目覚め、そちらの道も模索する日々を送る。