「月曜日に報告書を提出」簡単な指示でもうまく伝わらないのは「プロンプト思考」が足りないから?
AI時代のプロンプト思考とその4つの原則(目的からの逆算、前提の設定、制約の明示、言葉の定義)を解説する本連載。今回は、これらの原則を皆さんの仕事にどのように適用できるのか、部下への作業指示というシチュエーションを使って具体的なやり方をご紹介します。
目次
「月曜日に報告書を提出」に潜むトラップとは?
現代のコミュニケーション術「プロンプト思考」の4つの原則は以下の4つ。
1 目的からの逆算
2 前提の設定
3 制約の明示
4 言葉の定義
部下との意思疎通がうまくいかないと、どのような問題がおきるのかみてみます。
例えば、こんなシチュエーションです。
あなたは週明け月曜日に、プロジェクト報告書を部長へ提出することになっています。そこで資料の一部を部下に任せるとします。このとき、「月曜日に提出するので、プロジェクト報告書を作成してください。具体的には、スケジュールと進捗を1枚で報告してください」とだけ伝えると、何がおきるでしょう?
考えられるケースをあげてみます。
月曜日の朝に提出される
部下は提出期限を月曜日の朝と誤解しました。あなたの書くパートとマージするために、遅くとも金曜日の昼までに提出してほしいと伝えるべきでした(前提の設定ができていない)
余計な情報が盛り込まれている
部下は良かれと思って、プロジェクトの概要まで記載した資料を作ってしまいました。報告書を読むのは部長なので、そういった情報は当然知っており記載不要と伝えるべきでした(前提の設定ができていない)
期日までに完了しない
金曜日の夜になって、他の仕事を優先したのでまだ着手できていません、と部下から相談がきました。これは最優先で仕上げる仕事であることを伝えるべきでした(前提の設定ができていない)
もしくは、木曜日にその部下が有休をとることを知っておくべきでした(制約の明示ができていない)
どうでしょう? 似たようなことは身近にありませんか?
指示を出した側はがっかりするだけで済みますが、部下はせっかくの頑張りを評価してもらえず、モチベーションが下がってしまうかもしれません。
こんなときはプロンプト思考を使いましょう。
「目的からの逆算」でスケジュールを立てる
まずは目的の設定からです。
あなたのミッションは「現在稼働中のプロジェクトについて状況と今後の見通しを判断できる報告書を月曜日の昼までに部長へ提出すること」だとします。
ですが、部下の育成にも責任をもつ皆さんであれば、「この仕事を通じて部下の文章力をのばしたい」とか「良い機会だから部下の計画力を鍛えよう」のように、いろいろな想いを一緒に叶えたくなるでしょう。
しかし、こうやっていくつもの目的を混在させてしまうと、何が良くて何がだめなのか、判断に迷いが出ます。
例えば、金曜日の昼に部下が提出してきた資料がイマイチな品質だったとき、それを受け取ってあなたがリカバリするのか、それとも添削してやり直しを命じるのか(そしてあなたは休日出勤するのかもしれない)、どちらを選ぶのが正しいのでしょう?
もし、月曜日の提出までに猶予がない仕事なのであれば、迷わず受け取ってあなたがリカバリしなければいけません。このように、目的は1つに絞ることが重要です。
次に、この目的を達成するためにすべきことを逆算します。
ゴールである月曜日の昼から逆算して、以下のようにスケジュールを明確にします。
翌週月曜日の昼に部長へ提出する
↑
月曜日の朝には資料が出来上がっており最終確認できている
↑
今週金曜日の夕方には部下のパートと自分のパートがマージできている
↑
金曜日の昼までに部下のパートが出来上がっており提出されている
つまり、部下の提出期限は金曜日の昼であり、この状態で資料は仕上がっていることが前提となります。これが、部下への期待値として伝えるべきことです。
「前提の設定」で部下への期待値を伝える
次に、部下への期待値を具体的に伝えられるようにします。
前提とは、コミュニケーションをとる者同士が理解し合うための共通理解のことです。例えば、「この仕事は社運をかけたもので絶対に失敗できない」とか、「このタスクは入社2年目なら2日でやれるはず」といったものです。
阿吽の呼吸で仕事をする関係であれば、こうした前提を省いてもコミュニケーションが滞ったり誤解されたりすることはないでしょうが、そうでない場合には、一つ一つ、共通理解を積み上げていく必要があります。
例えば、以下のようなことを「前提」として部下に伝えるのが良いでしょう。
前提① あなたの目的
あなたの目的は「現在稼働中のプロジェクトについて状況と今後の見通しを判断できる報告書を月曜日の昼までに部長へ提出すること」でした。
これが最も基本的な前提となります。チーム活動では、同じ目的を共有するところが出発点となります。
前提② 部下への期待
何を、いつまでに、どのようにしてほしいのか?部下への具体的な期待を前提として整理します。
- 報告書全体のうち、部下に担当してほしい箇所はスケジュールと進捗のパートであり、1枚にまとめてほしい
- それ以外の情報は記載不要
- 進捗に遅れがある場合には、原因と対策も記載すること
- 他のパートにマージして仕上げる時間が必要なので、金曜日の昼までに提出すること
- 部長が月曜日の昼に予定している報告会で使う資料なので、最優先で取り組むべき仕事である
- 金曜日の提出時点で手直しがほぼ不要な状態で仕上げること
- 入社2年目であれば2日あれば十分にできる難易度であること
このように前提を明確にすることで、共通理解が深まり、部下は自分の役割と責任、そして何をすべきかがはっきりします。そして、成果を出せればモチベーション向上にもつながります。
「制約の明示」で現実的な指示にする
制約とは、使うリソース(人、時間、予算など)の限界や条件のことです。ここが曖昧なままモノゴトを進めると、期限通りに終わらなかったり、余計なお金がかかったりとトラブルが起きることがあります。
先ほどの部下への指示内容を、制約を意識してブラッシュアップしてみます。
例えば、以下のような制約があるかもしれません。
制約① 時間
今日が水曜日だとして、あなたは2日もあれば部下はこの資料を仕上げられるだろうと思うかもしれません。ですが、実は木曜日の午前中に入社2年目対象の研修が設定されていたらどうでしょう?部下がそのことを報告しなければ、時間内に終わらないかもしれません。使える時間はしっかり把握した上で、指示を出す必要があります。
制約② 人
仕事を託そうとしていた部下のAさんは実は木曜日に有休をとる予定かもしれません。こうなると予定通りに仕上がらない可能性が高いので、指示を出す相手を変えるなどして見直す必要があります。
このように、目的を一つに定めて逆算してスケジュールを立て、前提と制約をふまえてブラッシュアップしていくと、目的の達成が現実的なものになります。
「言葉の定義」でコミュニケーションを簡潔にする
チームでの仕事では、コミュニケーションが非常に重要です。ところが、同じ言葉でも人それぞれの解釈があり、誤解が生じることも少なくありません。
例えば、こんな言葉を職場でよく使っていませんか?
「重要」「なるはやで」「良い感じに」「確認してください」「分かりづらい」「効率よく」「一生懸命に」などなど・・
こうした言葉は日常的にも、何気なく使っていることが多いでしょうが、仕事においては、厳密に定義しないと相手が誤解することがあります。
「なるはやで」仕上げるタスクの期限は1日後かもしれないし、1週間後かもしれません。「良い感じに」仕上げてほしいとお願いしたあなたは、文章を読みやすくしてほしいという意味で伝えたかもしれないのに、出来上がった資料は色使いのカラフルなビジュアルに凝った資料かもしれません。
先ほどの部下に指示した「プロジェクト報告書の作成」では、意識的に言葉の定義をしていたことに気づいたでしょうか?恐らく、普段のコミュニケーションではもっとくだけた指示になることが多いと思います。
例えば「部長に報告するので手伝ってほしい。急ぎで」とか。これで通じるなら楽ですね。もしこれが毎週のことで、もう半年以上も続いている仕事であれば問題なさそうです。つまり、上司と部下の間の共通理解となる前提がたくさなればあるほど、いちいち説明しなくても良くなるわけです。
この言葉は認識がズレそうだな、と感じたり、過去にそうした経験をした場合には、積極的に、この言葉はこういう意味ですよ、という説明を伝えることをお勧めします。
面倒ではありますが・・その面倒はあとで必ず役に立ちます。
どうでしょう?皆さんのプライベートや仕事の中でも、プロンプト思考を活用できるシーンは意外とあることに気づいてもらえたでしょうか?
特に仕事においては、結局のところ「煩わしいやりとりの数をできるだけ減らすにはどう伝えれば良いか?」を考えることがプロンプト思考の出発点となります。
何度言っても伝わらない・・もし皆さんがそんな悩みを抱えているのであれば、まさに「プロンプト思考」を鍛えるチャンスです。
私たちの生活にChatGPTのようなAIが共存することが当たり前になりつつあります。SNSや動画を見たり、LINEで友だちとコミュニケーションをとるのと同じくらい、プロンプトを使うことが当たり前になるでしょう。そんな日常の当たり前の中で日々、プロンプト思考を意識することができれば、筋トレのようにプロンプト思考を磨き続けることができるのです。
次回は、ChatGPTのプロンプトを使ってプロンプト思考を磨く方法をご紹介します。
記子
ITコンサルタント/小笠原記子
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この記事を書いた人
- (おがさわらのりこ)都内ITベンチャー企業で働くITコンサルタント。20年以上のSEの経験を持つ。立命館大学理工学部情報学科卒。フルタイムの仕事と子育てを両立させながら、KIT虎ノ門大学院でビジネスを学び2016年に修了。2023年より、武蔵野大学で非常勤講師も務める。