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利尻島民だけが知っていたうまみピークの「十年熟成昆布」。「新たな価値」で地方創生ビジネス

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高品質で知られる北海道・利尻島の昆布の中でも、最高級品と珍重され一部の料亭だけに流通する「3年物昆布」。熟成でグルタミン酸が増し、えもいわれぬ出汁のうまみは知る人ぞ知る究極の味とされています。ところが、実はさらに熟成を進 […]

高品質で知られる北海道・利尻島の昆布の中でも、最高級品と珍重され一部の料亭だけに流通する「3年物昆布」。熟成でグルタミン酸が増し、えもいわれぬ出汁のうまみは知る人ぞ知る究極の味とされています。ところが、実はさらに熟成を進めると、昆布のうまみは10年目でピークに達するという研究結果があります。島民の間だけで知られてきた幻の昆布に魅せられた元商社マンが、その魅力を世界に伝えようと奮闘しています。

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三菱商事に勤めていた大路幸宗さんは2018年、観光で訪れた北海道・利尻島で一人の漁師と出会いました。「7~8月の昆布漁の時期に、水揚げした昆布を天日で干す作業をするための人手が足りない」。そんな相談を受けた大路さんは、自身が卒業した京都大学の学生を、夏休みのアルバイトとして島に呼び込むアイデアを提案します。

水揚げされたばかりの昆布は全長約150センチ。たっぷりと水を含んで重い上、ぬめぬめと滑りやすく、持ち上げるのも一苦労。それを「干し場」と呼ばれる浜辺の岩場に1枚ずつ、重ならないように並べて乾燥させなくてはなりません。

学生に利尻島でのアルバイトを呼びかけたところ、離島での昆布収穫という未知の体験に興味津々。十数人を予定していたアルバイトの枠はすぐに埋まり、この漁師が抱えていた人手不足の悩みは一気に解決しました。

これを機に島の人々との交流を深めた大路さんは、島の外ではまったく流通していない、5年物、7年物といった長期熟成昆布の存在を知ります。

昆布は時間をかけて熟成させると、うまみ成分のグルタミン酸が増える性質があります。京都の高級料亭など限られた範囲だけで売買される3年熟成の昆布は、グルタミン酸が実に2倍に増えることがわかっています。

3年を超え、利尻の昆布蔵でさらに長く熟成させた昆布は、夏の湿った風と冬の厳しい寒さで膨張と収縮を繰り返し、うまみをたっぷり含んだ飴色の昆布へと姿を変えていきます。グルタミン酸の含有量は、10年目でピークを迎えるそうです。

このような長期熟成の昆布が市場に出回らないのは、品質が悪化したり、最悪の場合は何らかの事故で価値がなくなってしまったりといったリスクを問屋が嫌ってきたことが原因です。利尻の昆布は1年熟成や、熟成させていない「新物」でも売れるため、そんなリスクを負う必要がなかったのです。

実際に長期熟成の昆布で取った出汁を味わった大路さんは、その深い味わいに衝撃を受け、「十年物昆布」で独立起業することを決意します。ただ問題は、世の中のほとんどの人が「長期熟成の昆布はうまみが増す」という事実を知らないことです。そもそも、そんな商品が市場に出回ったことがないのだから、当然です。

「自分の仕事は、世の中に長期熟成の昆布の魅力を広げ、熟成期間に見合った価格で買ってもらえる状況を作り上げることだと心に決めました。5年、10年と熟成させても売値が変わらないのでは、ビジネスとして成立しません。10年物の昆布を、少しぐらい高くても手に入れたいと多くの人が思うようになれば、ビジネスとして間違いなく成功すると確信しました」

大路さんは「十年物昆布」を世に出すため、「文継」という会社を興しました。大路さんは、現地で空き家を買ったものの東京に拠点を起き「住まない移住」を実現。移住しないからこそできる貢献地元の漁業法人と協力して昆布の貯蔵を始めました。利尻島の昆布を、ウイスキーのように熟成を重ねて価値を増す商品にしたいと考えています。世界で引っ張りだこの日本ウイスキーと同様、海外からの注目も集まりそうです。海外に信頼できる代理店を見つけ、そこを通じてしっかりとしたビジネスをするという商社時代の人脈づくりを活かして準備を進めています。

実は、大路さんの手元には今、地元漁師が熟成させてきた「7年物」の昆布があります。出荷まであと3年。市場での認知度を高め、世界中の人が「欲しい」と思う商品にすることが、この間のミッションです。

この記事を書いた人

華太郎
華太郎経済ライター
新聞社の経済記者や週刊誌の副編集長をやっていました。強み:好き嫌いがありません。弱み:節操がありません。

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