人生を変えるI amな本「女フリーランス・バツイチ・子なし」で東京から鹿児島へ移住。仕事や移住先のコミュニティのリアルは?
コロナ禍で一気に関心が高まった移住。フリーランス、バツイチ、シングルで東京から鹿児島に移住した女性の顛末とは? 本当に知りたい移住のリアルです。仕事はどうなるのか、移住先でのコミュニティ―問題など。
目次
心配ごとは「仕事」と「コミュニティ」
コロナ禍を機に、地方移住を検討する人が増えました。特にフリーランス・個人事業主で、リモートワークが可能な職種であれば、そのハードルは低いと考えられます。
でも、実際に行動に移した人となると、その数はぐっと減ります。「取引先との関係が途切れるのではないか」「コミュニティに溶け込めるか」など、不安要素が大きいのですね。
中年、バツイチフリーランス女性、東京から鹿児島へ
そんな不安もなんのその、住み慣れた東京を離れ、移住を敢行したフリーランスがいます。
その人は、藤原綾さん。保険会社、出版社を経て独立。今は編集者・ライターとして活躍しています。
生まれも育ちも東京で不便は感じていなかった藤原さんですが、40 代に入って、この大都市で暮らしていくことに疑問を感じます。
いろいろと考えた末、千キロ近く離れた鹿児島県へ移住を決断。時おり仕事で上京するも、ここを拠点に暮らしています。
その顛末を描いたのが著書『女フリーランス・バツイチ・子なし 42 歳からのシングル移住』(集英社)。本の帯には「バツイチ、子なし、ひとり暮らしの中年女性」とありますが、移住には不利とされる条件を乗り越え、どのように成功したのでしょうか?
本書を紐解きながら紹介してみましょう。
新居はバス停まで「徒歩 43 分」
ひと口に移住といっても、その候補たるや北は北海道、南は沖縄まで無数にあります。そこから1つを絞り込むため、藤原さんはどんな生活をしたいのか書き出しました。
出てきたのは、「美味しいご飯がたくさん食べたい」「海より山」「毎日、いい感じの硫黄泉に入りたい」など。なかでも「硫黄泉」というキーワードに心惹かれ、そこから鹿児島県を思いつきます。ほとんどの親戚は東京在住ですが、大叔母一家が鹿児島に住んでいるという点もポイントでした。
鹿児島における繋がりを既にたくさん持っている人が近くにいるのは、何かと心強い気がします。
硫黄泉があるのは、鹿児島市内から車で 1 時間ほどの霧島市で、ご飯が美味しくて、山があって、硫黄泉があって、水道水がガブガブ飲めて、隣家に憚ることなく音楽を聴けそうで、夜は星が綺麗な場所。
完全にダークホースだった鹿児島が、移住先の候補として急浮上するのを感じました。(本書 53p より)
東京と鹿児島を行ったり来たりしながら、ついに見つけた物件は、「畑の中にぽつぽつと家が建つ小さな集落」の一軒家。一番近いバス停まで「徒歩 43 分」という場所でした。便利さという点では、都心と比べるべくもありませんが、藤原さんは「不便を理由に田舎に住まないのはなんだか違うような気がする」と、移住を決めます。
対面 MTG ができずに仕事は減少
新たな住まいは、生活していくぶんには素晴らしいところでした。一方、仕事については「不安はまったく解消されていません」という状態だったそうです。
移住については、引っ越し直前までクライアントに伝えていなかったそうです。ファッションの編集の仕事は、撮影などあってフルリモートは不可能。また、コロナ禍のさなかであっても対面の打ち合わせを貫く企業もあり、どうしても仕事は減る雲行きでした。
おまけに移転早々、Wi-Fi の契約を忘れていたことに気づき、しかも接続開通日は早くても2 か月後という状況。これは、ご近所さんが使っている Wi-Fi のパスワードを教えてもらい、ことなきを得ます。移住 2 日目で、東京にはない隣人のありがたみを感じる藤原さんでした。
東京への交通費がかかりすぎる
いずれにせよ、鹿児島と東京を往復するワークスタイルが続くことを、藤原さんは覚悟していました。LCC を活用するとはいえ、発注者はさすがに飛行機代までは出してくれません。
1 ページ連載の案件の依頼があったそうですが、交通費を考えると赤字になってしまうため、泣く泣く断ります。
逆に鹿児島に行ってもできる仕事の打診など、ポジティブな話も。藤原さんは、「行動を起こしていれば、結果はあとからついてくる。何が起こるかわからないけれど、前進あるのみ、猪突猛進」と自分を奮い立たせます。
移住は正解だった? 失敗だった?
本書が刊行されたのは、藤原さんが移住して 1 年目を過ぎたあたり。「バツイチ、子なし、ひとり暮らしの中年女性」にとって、移住は正しい選択だったのでしょうか?
それは巻末に記されています―「四季折々の霧島はどれも美しく、季節の野菜や果物を前に、今まで以上に食べることが好きになりました。仕事に煮詰まったときは、車を少し走らせれば桜島が見渡せる海辺があって、ちょっとしたストレスは夜の温泉が洗い流してくれます」云々。愚痴めいた話もなく、収入のあてが先細るといった、つらい出来事もなさそうです。
移住は、まさに案ずるより産むが易しなのでしょう。四十を超えたら、自分の心の声に正直に生き、暮らすのが正解と実感できる 1 冊です。
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この記事を書いた人
- 都内出版社などでの勤務を経て、北海道の老舗翻訳会社で15年間役員を務める。次期社長になるのが嫌だったのと、寒い土地が苦手で、スピンオフしてフリーランスライターに転向。最近は写真撮影に目覚め、そちらの道も模索する日々を送る。