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日常の困りごとを解決するソーシャルビジネスのはじめ方とアイデアの見つけ方。体験者のリアルも紹介。

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ソーシャルビジネスとは、社会の課題解決を第一の目的としたビジネスのこと。はじめるポイントやアイデアの見つけ方を国内外の事例や経験談とともに解説します。

ソーシャルビジネスとは

 「社会的事業活動」と直訳できる「ソーシャルビジネス」ですが、金銭的な利益の追求を第一目的とせず、社会的な利益を第一目的とするビジネスのことを指します。お金を稼ぐと同時に、社会の課題を解決する事業とも言えます。

 経済産業省では「地域社会の課題解決に向けて、住民、NPO、企業など、様々な主体が協力しながらビジネスの手法を活用して取り組むのが、ソーシャルビジネス(SB)/コミュニティビジネス(CB)です。」という説明がされています。ソーシャルビジネスに関する国の事業が展開されたのは、平成20年前半頃。約10年前に国の政策として活発に取り上げられました。

参考:経済産業省 「ソーシャルビジネス」

ソーシャルビジネスの特徴

ソーシャルビジネスの提唱者である、ノーベル平和賞受賞者で経済学者のムハマド・ユヌス博士によると、ソーシャルビジネスの7原則として以下のことを特徴づけています。

  1. 経営目的は、利潤の最大化ではなく、人々や社会を脅かす貧困、教育、健康、情報アクセス、環境といった問題を解決すること。
  2. 財務的・経済的な持続可能性を実現すること。
  3. 投資家は投資額のみを回収できる。元本を上回る配当は還元されない。
  4. 投資額以上に生じた利益はソーシャル・ビジネスの普及と会社の改善・拡大に使う。
  5. 環境への配慮すること。
  6. 従業員に市場賃金と標準以上の労働条件を提供すること。
  7. 楽しみながら取組むこと。

また、日本では、平成23年に経済産業省から公表された「ソーシャルビジネス推進研究会 報告書」によると、特徴として「社会性」「事業性」「革新性」の三つの要件を設定しています。

①社会性

現在解決が求められる社会的課題に取り組むことを事業活動のミッションとすること。

※解決すべき社会的課題の内容により、活動範囲に地域性が生じる場合もあるが、地域性の有無はソーシャルビジネスの基準には含めない。

②事業性

①のミッションをビジネスの形に表し、継続的に事業活動を進めていくこと。

③革新性

新しい社会的商品・サービスや、それを提供するための仕組みを開発したり、活用したりすること。また、その活動が社会に広がることを通して、新しい社会的価値を創出すること。

参考:経済産業省「ソーシャルビジネス推進研究会報告書概要」(平成23年3月公表)

ソーシャルビジネスと非営利法人、営利法人

 ソーシャルビジネスを行う組織の法人格は営利、非営利を問いません。NPO法人や株式会社など様々な法人格が想定されますが、重要なことは事業で達成するべき目的が社会課題解決としているかどうか、にあります。また、その過程の中で自ら事業収益をあげているかどうかという点もソーシャルビジネスとそうでないものを分ける基準となります。

 例えば、営利法人である株式会社が「社会課題を目的としている」場合にはソーシャルビジネスと言えるでしょう。また、非営利法人であるNPO法人が「自ら事業収益を得ている」場合にもソーシャルビジネスと言えるでしょう。

 ここで、「NPO法人などの非営利組織が稼いでもいいの?ボランティア団体じゃないの?」と思った人もいるかと思います。NPO法人でも事業収入を得ても当然よいのです。非営利組織とは、活動によって得た利益や資産を構成員(会員や役員)に分配しないということで定義されます。つまり、非営利組織が対価を受け取って活動してはならないということではなく、活動によって利益が出た場合に、株式会社の配当にあたる行為はせず、その団体が目的とする活動に充てていくということになります。

〈体験談〉ビジネス立ち上げのヒントは「日常の困りごと」

写真/Canva

地域おこし協力隊からシェアハウスを運営

 地域おこし協力隊を経てソーシャルビジネスを行っている、石川県加賀市の生駒朋子さんにソーシャルビジネスについてお伺いしました。シングルマザー向けシェアハウス「ハニコム」管理人、自然体験インストラクターとして本業の傍ら、事業活動を行っています。

シンママ向けシェアハウス「ハニコム」

 2020年10月「ははこ(母子)世帯」同士がともに暮らし、互いに支え合いながら暮らすことを目指すシングルマザー向けシェアハウスをオープンし、その管理・運営をしています。

 地域おこし協力隊の活動を通じて出会った地域の方から借り受けた、古民家の空き家を利活用し、リフォーム、DIYを経て誕生した場所です。「ハニコム」と名付けられ、ハニコム(Honeycomb)は蜂の巣を意味しています。

蜂の巣は「ハニカム構造」と呼ばれる六角形を隙間なく並べた構造をしています。六角形が集まって支え合って一つの巣(家)を形成しているところにシェアハウスと近いものを感じました。

互助ハウスとしての互いを支えあう

また、蜂はメスが中心のコロニー(家族集団)を形成していて、ミツバチの場合働き蜂は100%がメスです。女性が中心のコミュニティとして、お互いに支えながら暮らしていく家として、この名前を付けました。

 ハニコムは「互助ハウス」と表現することもあり、「お互いに支え合っていくこと」をコンセプトにしています。管理人や入居者は血の繋がった家族ではないけれど、お互いが抱えている悩みや負担を一緒に分かち合って、助け合いができる関係性を大切にしています。

きっかけは「いてくれるだけで助かる」

 ソーシャルビジネスをはじめたきっかけは、地域おこし協力隊の福祉系事業テーマの起業プログラムに応募したことでした。子どもの頃に脳梗塞を経験し、ずっと支援される側だった自分自身が「自分の当事者性を活かして何かできないか」と考えました。

 事業の方向性や内容を模索していく中で、あるシングルマザーの友人との出会いによって方向性が決定していきました。

 その友人のお宅に遊びに行った時、「いてくれるだけで助かる」と感謝されたことに驚きました。何か特別なことをしたという訳ではなく、おしゃべりしたり、一緒に夕食を食べたり、子どもたちの遊び相手になるなど、ただそこに存在していただけなのに、です。

仕事と家事育児の両立の課題がヒントに

 その友人との交流を深めるうちに、仕事と家事育児の両立をひとりで受け負っている状況の中で、「自分のための時間」や「大人同士の会話の時間」を確保することの難しさが存在することがわかってきました。そこから徐々に「ははこ(母子)向け」に自分に何か出来ることはないかなと模索しはじめたのがきっかけです。

自分自身のやりがいや人との繋がり

 シングルマザー向けの支援をしていると「他に尽くす自己犠牲の人」のように思われることが多いですが、実は自分のためにやっている部分もあるんです。

 私自身、単身世帯で過ごしている中、生活の一部を共有する人の存在がとっても大きく、私自身の豊かな生活にも直結しているように思います。特に、日常生活の中で地域の子どもたちと深く関係を築くという経験がなかなかできないけれど、管理人という立場から成長を喜ぶことができる子どもたちが存在することで、この事業のやりがいに繋がっています。

 また、事業を開始したことで、シングルマザーを支援したい人やセクターと繋がることができました。協働関係もうまれつつあり、地域社会にインパクトを出していける可能性にやりがいを感じます。

ソーシャルビジネスで一本立ちの壁

 一方で、課題としては、まだ「それ一本で食べていける」状況ではなく、副業的な活動に限られています。将来的には自立して事業を行っていきたいですが、今は本業がないと難しい状況です。また、オープンから2年経ち、シェアハウスの方向転換も考えています。シングルマザーだけでなく、若年女性の単身移住者の地域の入口となるようなシェアハウスにもなり得ると考えています。スモールスタートアップしている分、地域の社会情勢に合わせながら柔軟に事業の役割を考えていきたいです。

ソーシャルビジネスに向く人とは?

 ソーシャルビジネスに向いている人は、「当事者意識がある人」だと考えます。儲かりそうかどうかではなく、自分が本当に課題だと思っているかどうかがソーシャルビジネスとビジネスの分かれ目だと思います。ビジネスセンスがあるにこしたことはないですが、目先の儲けだけでなく、長期的に事業展開を見ることも重要かもしれません。

 私自身も、自分には向いていないんじゃないかと悩むこともあります。「それはビジネスじゃない」「それじゃあ食っていけない」と周囲から言われることもありますが、少しずつでも事業として成り立つよう継続していくことが私の挑戦だと思います。そのための精神的、身体的、金銭的体力は必要だと感じています。

 シングルマザー向けのシェアハウスは新学期を控えて1月〜3月の問い合わせが増えます。

募集は各種SNSから行っていますので、興味のある方はお気軽に問い合わせていただけると嬉しいです。

ソーシャルビジネスが求められる背景

写真/Canva

 グローバル化が進み、貧困や環境汚染など国際社会が抱えるさまざまな課題が明るみに出るなかで、政府や国際機関だけでなく、民間企業も課題解決のための重要なプレーヤーであるという考えが世界的に広がってきています。

 日本でも、環境問題、貧困問題など、様々な社会的課題が日々顕在化しています。従来、こうした社会的課題は、行政を中心とした公的なセクターが主に解決を担ってきましたが、様々な社会的課題が顕在化され、多様化し複雑化していることを踏まえると、それらの課題全てを行政が解決することは、難しい状況にあると言ってもよいのではないでしょうか。

 行政以外では、近所同士をはじめとする地域社会のコミュニティでの助け合い、ボランティア活動を中心とした任意団体やNPOによる支援を通じて困りごとの解決を支えてきましたが、ここに新しく「ビジネス」という手法を使って解決を推し進める「ソーシャルビジネス」が注目されはじめました。地域を越えた社会的課題を事業性を確保しつつ解決しようとする様々なセクターに期待が高まっています。

 「ソーシャルビジネス」に社会的な注目が集まるほど、利潤の最大化を第一目標とする一般的なビジネスと、「ソーシャルビジネス」の垣根は年々低くなっており、多くの民間企業が社会的な価値創造を意識しなくては生き残れなくなっているとも言えるのではないでしょうか。例えば、アパレル業界では従来より廃棄物による環境汚染や労働環境問題が指摘されてきました。この課題が社会一般に広く周知されるようになってから、消費者が「この会社の製品はそのような社会課題に加担していないか?どのように取り組んでいるか?」など意識が高まっており、消費行動に直接的に関与している現状があります。価格も含めた商品自体が魅力的かどうかではなく、環境に配慮された「サスティナブルな商品」や、労働環境等倫理的に配慮された「エシカルな商品」など、製造プロセスやブランドのスタンスが注目されています。

ソーシャルビジネスの事例

写真/Canva

実際に、どのようなソーシャルビジネスが存在するのか、日本と海外の事例をあわせて紹介していきます。日本の事例では、どのような社会課題をどのようなビジネスで解決しようとしているのかを紹介し、海外の事例では、身近な課題からグローバルにスケールしている事例を紹介していきます。

日本①手織りシルクブランド「メコンブルー」

有限会社ラ・フェリア(メコンブルー) 

 貧困問題をはじめとする途上国の社会的課題の解決に結びつく製品の輸入・販売を通じて、日本各地で製品を通じた国際交流の場作りを行っています。現在、主な取り扱い製品である「メコンブルー」は、カンボジアの手織りシルクブランドです。「ひとりでも多くの女性を貧困から救いたい」というカンボジア現地NPOが、自立支援として読み書きと伝統織物の技術を女性たちに身につけてもらい、「メコンブルー」というブランドのストールを生み出しました。

 機能性やデザイン性も高く、製品自体の質が高いことから百貨店等での販売実績もあります。現在はオンラインストアを中心に販売を行っています。出会いと別れの季節に向けて、ギフトとして検討してみてはいかがでしょうか。

日本②こどもや高齢者の居場所づくり

シングルズキッズ株式会社 
 「シングルズキッズ(=ひとり親の子ども)たちを楽しくHAPPYに!」というミッションの元、(1)ひとり親とこどもの生活支援、(2)シェアハウス、下宿の運営管理、(3)飲食店の運営を行っています。

 シニア同居・地域開放型シングルマザー下宿「MANAHOUSE」では、ひとり親とその子どもが多様な大人たちと楽しく温かいご飯を食べることができる場所とつながりを提供しています。最近では他団体とのコラボレーションとして、シングルマザーと子ども×児童養護施設出身のユース(若者)が寄り合って暮らすシェアハウスプロジェクトをスタートさせています。

海外①食品ロスアプリでwin-win-win

Too Good To Go  

 「Too Good To Go」はデンマークで生まれた食品廃棄物をなくすことを目指すアプリです。近所のレストラン、カフェ、スーパーなどで余った食料品や食事を割引価格で購入できるサービスで、現在は世界各国の都市で導入され、広がりを見せています。売り上げの2/3が加盟店、残りが運営会社の売り上げというビジネスモデルとなっており、加盟店にとっては決して大きな利益を生むわけではありませんが、レストランやベーカリーなど、食品を廃棄することへの罪悪感の軽減や、環境負担への軽減に貢献する、地球に優しいお店とPRできるなど、単に売れ残りを無くす以上の意味があると言えそうです。消費者にとっても、定価よりも安く食料品を手に入れることができるため、誰にとってもWin-Win-Winなアプリと言えそうです。

海外②海遊びから海洋プラスチックゴミの回収

Seabin Project 

 「Seabin」とは海(Sea)のゴミ箱(bin)という意味で、海を汚染しているプラスチックゴミを中心に回収する装置です。Seabin Projectが始まったきっかけは、海を遊び場にして育ち、世界各地の海でサーフィンやヨットを楽しんできたオーストラリア出身の2人が海洋浮遊ごみを自動で回収する「Seabin」を自分たちで開発し製品化しようと、クラウドファンディングサイトの「Indiegogo」を通じて支援を呼びかけたところ、約2カ月間でおよそ36万豪ドル(約2880万円)が集まりました。現在は、単に装置をリースするだけでなく、海洋汚染の解決を起点とするクリーンな都市開発のサポートするパッケージを展開しスケールしています。

ソーシャルビジネスで失敗しないための3つのポイント

ソーシャルビジネスを始める場合に、どのようなポイントを抑えたらよいのでしょうか。ポイント別に解説していきます。

ポイント①社会的課題を解決

 ソーシャルビジネスとして事業を行うには、「社会的課題」を「解決すること」が前提となります。その社会課題への使命感や、どのような社会を目指すのかが設計の根幹となることは間違いありません。取り組もうとする「社会的課題」を明確にするとともに、その課題解決に当たって「何をする」かを明確にするとよいでしょう。

事業目的と事業内容の明確化

 「何をする」を明確にするにあたり、想定される事業の中から中核となる事業、付帯となる事業を決めていきます。市場の規模や競合等もリサーチをして、どのくらいの需要に対し、どのくらいの供給をすべきか検討していくことも重要です。

 そして、この「何をする」という部分で、期待されるのが革新性です。従来の解決方法とは全く新しい方法で社会課題の解決を担うことができれば、社会へのインパクトも強まるでしょう。創業者のクリエイティビティが発揮される部分と行って良いのではないでしょうか。

ポイント②事業を頓挫させない

 ソーシャルビジネスの根幹は「社会課題の解決」ですが、その社会性や解決策の革新性を追い求めすぎたあまり、事業性が乏しかったり、収益性が乏しかったりして、事業が頓挫するといった事例も度々あるようです。

事業性・収益性も欠かさない

 社会課題解決に燃える使命感が強すぎるあまり、現実的な計画を立てることができないということがないように、事業の設計や、どのように収益を確保していくのかなど、しっかりと考えていきたいポイントです。

 出資者や支援者に賛同してもらえる事業設計、事業計画が作れているかどうか、一度作った計画を見直すタイミングも作っておくほうがいいでしょう。

ポイント③お金のリテラシー

 融資、補助金、助成金等、資金繰りについての知識をつけておくということも重要です。

資金繰り

先述の通り、事業計画が甘く事業が頓挫したり、中断せざるを得ない場合が起きたり、といった可能性は否定できませんし、刻一刻と変化する社会の状況によっては計画通りに進めることが困難である場合もあります。

 その際にどのように資金繰りを行うのかの選択肢をあらかじめ知っておくことで、状況にあわせて最適な策を講じることができるのではないでしょうか。

 また、事業のスタートアップとして「クラウドファンディング」という少額の出資を多数の人からを得るという方法もあります。創造性や熱意といった部分と、実現可能性や継続性といったバランスをとりながら進めていきたいですね。

〈まとめ〉日常の困りごとを解決するソーシャルビジネスのはじめ方

 ソーシャルメディアをはじめとするインターネットの普及により、個人が自由に情報発信できる時代になりました。それに伴い、今まで誰も問題だと思っていなかったことが、社会課題として顕在化され認知されていくといった動きも加速しているように思います。

 今まで役割が明確に分断されていた行政・NPO・企業の境界線を「ビジネス」という手法を持ってして曖昧にすることによって、複雑化、多様化している社会課題に対してセクターの垣根を越え手を取り合い、スピード感と持続可能性をもって解決していくことができるかもしれません。「ソーシャルビジネス」が担えることは今後も増えていきそうですね。

文/小杉真澄

この記事を書いた人

I am 編集部
I am 編集部
「好きや得意」を仕事に――新しい働き方、自分らしい働き方を目指すバブル(の香りを少し知ってる)、ミレニアム、Z世代の女性3人の編集部です。これからは仕事の対価として給与をもらうだけでなく「自分の価値をお金に変える」という、「こんなことがあったらいいな!」を実現するためのナレッジを発信していきます。

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