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移住の最大の難関は土地に入れるかどうか?移住して「地方創生」で仕事をしたい。地方創生で 地域経済を活性化させる働き方とは?

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地方創生や移住に興味がある。地方で働き方、地方に移住したいという人のために、地方創生と個人の働き方を解説します。

そもそも「地方創生」とは

以前に増して注目されている地方や移住。地方では、国の方針である「地方創生」という政策の中で様々な取り組みが生まれています。でも個人で地方創生に取り組むことで仕事にできるのでしょうか? 今改めて「地方創生」、そして個人でもできることついて考えてみたいと思います。

「地方創生」の定義

 「地方創生」は2014年に政府が掲げた中心的な政策のことを指します。

 第二次安倍政権での三本の矢、「アベノミクス」の恩恵は大企業の集中する都市部に偏り、大多数の雇用者や居住者が暮らす地方部には届かず、地域間格差が大きく広がる兆候が表れていました。そして、日本創成会議・人口減少問題検討分科会で同年に発表された『ストップ少子化・地方元気戦略』では、複数の自治体が存続危機に陥るまでの状況について明らかとなりました。

 「東京一極集中の是正」「少子化対策」をはじめとする人口減少対策が、経済回復には不可欠であるということを認識した政府は、地方への政策を推し進めることになりました。「地方創生」は地域経済の活性化を目的とする経済政策であると同時に、人口減少や少子高齢化といった日本の構造的な課題に対処する社会政策でもあるのです。

参考:日本創成会議・人口減少問題検討分科会「ストップ少子化・地方元気戦略」(平成26年5月8日)

まち・ひと・しごと創生法

  地方創生に向け政府一体となって取り組むため、2014年「まち・ひと・しごと創生法」を制定し、内閣に「まち・ひと・しごと創生本部」が設置されました。

 2060年に1億人程度の人口を維持するなどの中長期的な展望を示した「まち・ひと・しごと創生長期ビジョン」と、これを実現するための5か年の目標や施策の基本的方向及び具体的な施策をまとめた第1期の「まち・ひと・しごと創生総合戦略」が策定されました。

 現在は、第2期「総合戦略」がスタートしています。

参考:「まち・ひと・しごと創生『長期ビジョン』『総合戦略』『基本方針』」内閣官房・内閣府総合サイト「地方創生」

地方創生の目

地方創生の目標として、現在政府は6つの目標を掲げています。政府として一丸となって取り組むこと、かつ、それぞれの地域が特徴を活かし自律的で持続的な社会を創生することを目指すことを目標としています。

「稼ぐ地域をつくるとともに、安心して働けるようにする」

「地方とのつながりを築き、地方への新しいひとの流れをつくる」

「結婚・出産・子育ての希望をかなえる」

「ひとが集う、安心して暮らすことができる魅力的な地域をつくる」

「多様な人材の活躍を推進する」

「新しい時代の流れを力にする」

〈地域おこし協力隊の経験者に聞く〉地方創生のリアル

写真/Canva

まずは、地域おこし協力隊として地方移住・地方創生に関わった筆者の体験談から、地方創生のリアルをお伝えします。

消滅可能性年の石川県加賀市にIターン

 私自身、学生時代から10年過ごした東京から、2019年に地域おこし協力隊として消滅可能性都市である石川県加賀市にIターン移住をしました。地元でもない、縁もゆかりもない土地に移住することは不安もありましたが、それ以上に期待に胸を踊らせていたことを覚えています。

 ただ移住するのではなく、チャレンジしたいことを実現したいと思っていた私は、まさに官民連携の事業である、起業家(起業を希望する人)の移住を促進する「ローカルベンチャープロジェクト」を様々な自治体と協業し実施している中間支援組織、一般社団法人Next Commons Labを友人から紹介され、その団体を通して移住地を決定しました。

固定費は東京に比べて半分程度

 移住先では、生活に必要な固定費も東京都比べ半分程度、生活環境も今までの暮らしが一変するような不便さはありませんでした。そういったハード面に対する大変さは大きく感じなかった一方で、地元関係者の方々にはとてもあたたかく迎え入れていただきましたが、なにより小さな町の「ローカルベンチャープロジェクト」の移住者、「この人は我が町で何をやってくれるのだろうか」というような周囲からのプレッシャーを勝手ながら感じていました。

泥臭くても「土地を知り、人を知る」

 私が任されたのは、商店街の空き家をリノベーションしたコミュニティスペースの活用とコミュニティの醸成という任務でした。まずはその土地を知り、人を知り、という泥臭いことから始まります。地域のキーマンと言われる人を紹介していただいては会いに行き、地域に求められているモノ・コトを把握することから地道に積み重ねていきました。縁もゆかりもない土地で、よそ者がその地域を活性化するということは、ともすれば「余計なお世話」でもあり、東京からの移住者という自分に傲っていたことにも気付かされ、自分の無力さに何度も打ちひしがれました。

信頼を得るには「行動と時間」

 どんな土地でも信頼を得るためには「行動と時間」の量であることは間違いありません。年月が進むにつれ、私を地域おこし協力隊として「よくわからないけど何かを頑張っている人」と見てくださるようになり、そこから協力者が少しずつ増えていきました。よそ者である自分の考えや価値観を面白がってくださったり、前職の経験や副業として同時に行っていた活動に対して興味関心を持っていただいたのはまさに地域おこし協力隊任期の最終年でした。一旦地元の方に協力していただいた後の推進力はとても力強いものでした。

簡単ではない任期中起業

 地域おこし協力隊任期中の起業とまではなりませんでしたが、前職での非営利活動の経験を活かし、仲間と共に私設図書館「おんせん図書館みかん」を新しい地域の交流の場として立ち上げました。

コミュニティ醸成という非営利事業であったことと、温泉地とはいえやはり人流少ない地域での自立的な運営が厳しい状況でしたが、最終的に加賀市を拠点とする財団、公益財団法人あくるめにその事業を継承することができ、現在は自分自身もその団体に所属しながら継続的に活動を続けています。

今でも地域での試行錯誤を重ねながら、よそ者としてのアイデンティティを起点に、地域の若年女性を支援するプロジェクトKAGA JOJOJO FUND(略称:かがじょ基金)を新たに進めています。

協力隊なしで単独起業は可能か?

 もしも、中間支援組織や地域おこし協力隊という制度に頼らずに、いち個人単独で移住や起業チャレンジをしていたかと問われれば、おそらくチャレンジすらできなかっただろうと思います。同時に、地方創生に関わる当事者にとっては、地方という狭いコミュニティに入っていくというハードルを根気よく乗り越えていかなければならない難しさもあります。地域に受け入れられながら、新しい風を運んでいくのは、よそ者である移住者や企業でしかなしえないバランスなのかもしれません。

「地方創生」が注目される背景

写真/Canva

 地方創生が注目されている背景としては、全国で進む人口減少による影響があります。

 地方では若者の人口流出が進んでおり、東京をはじめとする関東圏では人口が「超過流入」しています。また流入先の都心部の生産量が年々高まっている一方で、過疎化する地方地域が増加し、地域間の格差が拡大しています。

 また、流入がある関東圏、とくに東京都においては、出生率が著しく低いこともわかっています。地方から都市圏への若者の流出・流入と低出生率を要因として、人口減少に拍車がかかっています。全国約1800の自治体の半数が消滅可能都市であることが指摘されています。消滅可能都市というのは、20〜39歳の若年女性人口が2040年までに半減する自治体のことで、人口減少が加速する地域とされています。

参考:内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局「地方創生をめぐる現状と課題」平成29年7月

行政だけの仕事ではない! 個人でもできる「地方創生」

写真/Canva

 「地方創生」を合言葉に、地方に存在するさまざまな課題を解決していくための様々な取り組みが全国で展開されていますが、これは行政だけの仕事ではありません。官民連携、つまり行政と民間が連携して行う取り組みがあります。また、個人規模でも「起業」というキーワードでの地方創生の一つとして推し進められています。

①官民連携プロジェクト

 内閣府では、SDGsの国内実施を促進し、より一層の地方創生につなげることを目的に、広範なステークホルダーとのパートナーシップを深める官民連携の場として、地方創生SDGs官民連携プラットフォームを設置しています。自治体と民間企業・団体が連携し、その土地ならでは強みを活かしながら、地域課題に即したユニークな解決方法を実践しています。以下は、地方創生SDGs官民連携プラットフォームに紹介されている事例の一部抜粋です。

【事例①】茨城県境町 × BOLDLY株式会社

取り組み概要:境町には鉄道の駅がなく、車がないと生活できず、ご高齢の方が免許を返納したくてもできなかった。そこで、令和2年11月26日より、自治体では全国初の公道での自動運転バス定常運行を開始。現在、町民や事業者のご理解やご協力を得て電気自動車を活用した公共交通が町民の足として定着しつつあり、経済効果が7億円程度と試算されるなど、経済、社会、環境の3分野における効果が出ている。

参考:全国初!自動運転バス定常運行「誰もが生活の足に困らない町」へ

【事例②】愛知県蒲郡市 × 株式会社メルカリ

取り組み概要:全国的な自治体の大きな課題となっているごみの減量を図るため、蒲郡市・加茂市・西宮市において、自治体自らが、株式会社メルカリおよび株式会社ソウゾウが運営する「メルカリShops」を活用し、粗大ごみ等として排出されたまだ使えるものをリユース品としてネット販売する仕組みを構築し、財政負担を軽減しつつ、市民自らリユースを推進する施策も並行して実施することで、ごみの減量とリユースを推進した。

参考:自治体による粗大ごみのネット販売等でのごみ減量とリユース推進

②Uターン起業

 ふるさとへUターンして起業する、ということも地方創生の一つです。Uターンに限らず地方での起業のメリットとして、固定費が抑えられることや競合が少ないことが挙げられます。また、地域課題も多いためアイディアとマーケティング次第でビジネスチャンスは多いと言えるかもしれません。また、Uターンであれば地元ならではの人脈を活かすことも可能で、Iターン起業と比べると地域への参入のハードルが低いかもしれません。

 また、地方での起業には、新たな仕事、新たな雇用の創出を期待されており、内閣府では、地方での起業や東京圏からUIJターンにより起業・就業をする方へ支援金を支給する地方公共団体の取組を支援している状況もあります。また、令和3年度より、移住先でテレワークにより移住前の業務を継続する場合も対象化し、さらにチャンスが広がりました。

【事例】石川県加賀市 タビト學舎(高校生専門塾)

代表はIT系企業を脱サラし、足掛け2年間の世界一周新婚旅行の後、同じく同郷のパートナーと共に加賀にUターン移住し、町屋再生の補助金等を活用しながら学習塾を開設。塾では高校生向けに、面白い生き方をする様々な大人の姿を示すユニークな取り組みも行う。

③まちづくり・地域おこしなどの中間支援

 官民連携や個人起業などの支援やコーディネートを行う中間支援組織や団体も各地で活躍しています。法人格としては株式会社や一般社団法人、NPO法人等多様ですが、地域課題とリソースのマッチング、プロジェクトの進捗管理や伴走支援、人材の発掘・採用・育成など、多岐にわたりコーディネートしています。そういった中間支援団体を通して地域に関わっていくということも「地域創生」に繋がるといえるでしょう。

特定非営利活動法人エティック

ETIC.(エティック)は、社会の未来をつくる人を育むNPO法人です。1993年の創業以来、私たちの手がける実践型インターンシップや起業支援プログラムへの参加を通して、1600人以上が起業しました。これからも企業・行政・NPOといった多様なセクターを巻き込みながら、挑戦したい人を支える仕組みづくりを続けていきます。

一般社団法人Next Commons Lab

実験と実装を通じて、社会になかったものを具現化する。それが私たちのLabとしての姿勢です。全国各地に個性あふれる生き方を増やし、地域資源を活かしたプロジェクトを生み出すローカルベンチャー事業。社会を支える多様な企業との協業により、まだ見ぬ社会を切り拓くソーシャルデベロップメント事業。自らがビジョンを掲げ、社会の変化をリードしていける人材を増やすヒューマンデベロップメント事業。多様な企業や自治体、クリエイターと共創しながら、社会にさまざまな角度からアプローチするプロジェクトを展開しています。

株式会社アスノオト

人材育成・教育事業、ICTを含めたコミュニケーション・コンサルティング、都市と地方、経営者と従業員、生産者と消費者といった対立関係を恊働関係に変える相互理解支援を行う。さとのば大学の運営者。

〈まとめ〉移住して地方創生の仕事をしたい

 スタートアップの手法として「リーン・スタートアップ」というものがあります。コストをかけずに最低限の製品・サービス・機能を持った試作品を短期間でつくり、顧客の反応を的確に取得して、顧客がより満足できる製品・サービスを開発していくマネジメント手法のことを指します。マーケットの予測不能な地方では、まさにこのような手法を使っていくスタートアップやスモールビジネスにぴったりの環境と言えるのではないでしょうか。

 人口減少社会で起こりうる様々なエラーの最適解を知る人は誰もいません。だからこそ、いずれ革新的なサービスや取り組みが生まれる可能性に期待を込めて、今人口減少が進んでいる地方では積極的なトライ&エラーができるように国として環境を整えており、まさに挑戦の場といえます。故郷に貢献したい、地方に移住して新しいチャレンジをしたい、地方創生は熱量の高い多様な人材を地方に送り出す希望ある国家戦略です。様々な地方創生の姿がありますが、その人らしい「地方創生」の関わり方を見つけていきたいですね。

文/小杉真澄

この記事を書いた人

I am 編集部
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「好きや得意」を仕事に――新しい働き方、自分らしい働き方を目指すバブル(の香りを少し知ってる)、ミレニアム、Z世代の女性3人の編集部です。これからは仕事の対価として給与をもらうだけでなく「自分の価値をお金に変える」という、「こんなことがあったらいいな!」を実現するためのナレッジを発信していきます。

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