「いつも同じ笑顔」は逆効果? 笑顔を使い分けができる人が成功する
経営者や上場企業CEOから人気のスピーチコンサルント・矢野香さんは「笑顔は出し方より消し方のほうが大事」と言います。キャリアを伸ばしたい女性がどんな顔で笑ったら信頼と好感度を高められるのか教わります。
プロフィール
長崎大学准教授、スピーチコンサルタント矢野香
今、ChatGPTによって文章が自動生成される一方で、人とのコミュニケーションでは「話す力」が圧倒的に求められています。プレゼン、会議、コミュニケーションなどで「話す立場」におかれる40代キャリアに向けて、長崎大学准教授・スピーチコンサルタントの矢野香氏に専門分野である心理学・コミュニケーション論の研究とNHKキャスターの経験をもとに「爪痕を残す話し方」を学ぶ連載です。
* * *
スピーチコンサルタントの矢野香です。人の印象は「話し方」より「見た目」に左右されています。「見た目は話し方の一部」であり、「ビジネススキル」といえます。今回は、キャリアを伸ばしたい女性がビジネスシーンで信頼と好感度を高めるためには、どんな笑顔で話したら効果的なのかをお伝えします。
目次
笑顔の消し方は「信頼に関わる」
ビジネスマナーとして、普段から笑顔でいることを心がけていらっしゃる方は多いことでしょう。しかし、どんな場面でも笑顔でいる人は胡散臭いもの。本心ではなく、演技だと疑われてしまいかねません。
また、緊張したときや困ったときに、笑ってその場をごまかそうとする人もいます。これは世界中で日本人だけの傾向といわれています。
常に信頼と感情のコントロールを求められる世界の女性トップリーダーは、必要以上に笑いません。古くは「鉄の女」と呼ばれたイギリスのサッチャー元首相、近年ではドイツのメルケル元首相やアメリカ合衆国のカマラ・ハリス副大統領をイメージするとわかりやすいでしょう。ニュージーランドのアーダーン元首相も、母親であるという女性的な役割を前面に出してはいましたが、いつも笑顔というわけではありませんでした。
日本人女性に笑顔を絶やさない人が多いのは、日本社会でそのような役割が求められてきたからなのかもしれません。しかし、いつも電気がついていたら明るさのありがたみがわからないように、時々は笑顔も消しておかないと、効果がなくなってしまいます。
大事なことは表情変化なのです。もともとは笑っていなかった顔が挨拶をしたり、話しかけられたりしたときにニコッと笑う。もともとは笑っていなかった顔が、感情が動いたことで楽しそうに笑う。そして一度出た笑顔は時間経過とともに自然と消えていく。こうしたメリハリがあるからこそ、「あの人は信頼できる」と思われるのです。笑顔は出し方より消し方が大事。あなたも笑顔の消し忘れがないかどうか、日々確認してみましょう。
信頼を高めるのは「年相応の顔」
選挙戦の立候補者や、上場企業の役員など公の立場のクライアントにお願いしていることがあります。それはご自身の顔を修整しすぎないこと。男女問わず、プロフィール写真としてまるで別人のような素敵な笑顔の写真を出している方がいます。もし相手が、実物よりも先にその写真を見るとしたら要注意。実際に会ったときとのギャップで、あなたは「よいところしか見せようとしない人」「嘘をつく人」として一気に信頼を失うでしょう。
もちろん、年齢とともに増えてくるシワやたるみは気になります。
どうしても気になる場合、写真だと修整や加工技術、実物もメイクや美容外科などの手段で消すことはできます。その時に、修整しすぎないでいただきたいのです。原則は、「縦は消して、横は消さない」。相手とコミュニケーションをとるときには、それらが人間味としていい働きをしてくれることもあるからです。
眉間のシワ、ほうれい線といった縦の線は消してかまいません。顔にできる縦の線は、苦労や劣化という印象を与えてしまうからです。しかし、目じりのシワ、額のシワといった横の線は消してはいけません。横の線が与える印象は、感情や優しさ。横の線まで消してしまったら、たとえ優しい言葉をかけたとしても、言葉と表情が連動せず人間らしさが失われてしまうのです。まるでAIやアバターのようになってしまい、親しみやすさや好感度も下がってしまいます。
私も日々、鏡を見ながらため息をつくことがあり、シワが気になる気持ちはよくわかります。しかし、たとえ気になったとしても、相手との信頼関係を築くためには、横の線は消さずに残しておきましょう。「話をしているときに顔から消えないものは消さない」を心がけると、判断しやすいでしょう。
笑顔の大原則は「歯の数のコントロール」
ポイント①:歯の数
人が相手が笑っているかどうかを判断する表情の要素は、口角が上がっているか、歯が見えているかの2点です。さらに同じ笑顔でも、歯の見え方で相手に与える印象は変わります。
ポイントは見える歯の数です。
笑顔を大・中・小とレベル分けすると、とてもうれしい気持ちや、最大限に好意を伝える笑顔大で見える歯の数は8本。口をキューッと横に引いて、歯茎ギリギリまで見えている状態です。
中は、ほほえんでいる状態の4本。口を開く横幅は笑顔大と似ていますが、高さが変わります。上の歯の途中までしか見えないようにしましょう。
3つめの小は口角をあげる程度で、見える歯の数は0本です。
プライベートであれば相手を食事や集まりに誘うとき、ビジネスであれば誰かに作業を手伝ってもらう依頼をするときに、ぜひ笑顔大でお願いしてみましょう。自分が笑顔で話しかけると、相手もつられて笑顔になるという心理学でいうミラーリング効果がおこります。依頼や提案が受け入れてもらいやすくなるでしょう。
年下の相手と話をするときは中の笑顔で年上らしい落ち着きを表現する、相手の話を聞くときは笑顔小でうなずくなど、場面によって笑顔のサイズを使い分けましょう。
ポイント②:見せるのは上の歯
ここでのポイントは、上の歯だけ見せることです。メインビジュアルまたは下の写真を参照してください。歯茎と下の歯は見せず、上の歯だけ見える状態で笑っています。
下の歯まで見えていると、英語で言うと「laugh(笑う)」になり、笑顔ではなく「馬鹿笑い」ともいえます。10代であれば、大きな口を開け上下の歯を見せた「laugh」であっても元気がいいと思ってもらえるかもしれません。しかし、大人の女性であれば、歯の上下が見えているのは品がなく幼い印象になってしまいます。笑ったときに上の歯しか見せないようにして、品格のある「smile(笑顔)」を目指しましょう。また、ビジネスで使用する写真は、上の歯しか見えていないものを選ぶこともお忘れなく。
品格のある笑顔になる「トレーニング法」
「上の歯だけ見せる笑顔に挑戦したら、キープし続けるのがきつかった」という方も大勢いらっしゃいます。それは、上唇の力が弱っているのが原因です。そんな方に向けた2つのトレーニング法をご紹介します。
トレーニング法① 上唇のうえにペンを乗せ、1分キープ
トレーニング法② 上の歯を8本見せた状態でキープできなくなるまで続ける
①と②どちらか一つでかまいません。自分のやりやすい方法を試してみてください。マスク着用時であれば、トレーニング法②をちょっとした隙間時間に、こっそりと行うことも可能です。私も電車やバスを待っている時間や車を運転している時間などは、マスクの下ではずっと上の歯を8本見せた状態でキープし、頬がプルプルと震えるのを耐えながら鍛えています。簡単な方法なので、あなたもぜひ習慣にしてください。このように簡単な「ながらトレーニング」でも、続けていくことでいつの間にか品格のある笑顔が自然とできる爪痕を残す女性に成長できます。
次回は、「眉で聞き、眉で話す」についてお伝えします。
写真/Canva
関連記事
この記事を書いた人
- 「好きや得意」を仕事に――新しい働き方、自分らしい働き方を目指すバブル(の香りを少し知ってる)、ミレニアム、Z世代の女性3人の編集部です。これからは仕事の対価として給与をもらうだけでなく「自分の価値をお金に変える」という、「こんなことがあったらいいな!」を実現するためのナレッジを発信していきます。