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キャリア設計

女性キャリアに必要なのは「自己決定」と「ほんのちょっとの経済力」。元ポーラ社長・及川美紀のウェルビーイングなキャリア論

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「キャリアは掛け算」。元ポーラの社長・及川美紀氏に学ぶ女性のためのキャリア論とは?

2025年9月23日、都内で開催されたイベントで300人を釘付けにした元ポーラ社長・及川美紀氏。ウェルビーイング研究を取り入れた女性向けキャリアスクールICORE(代表:安藤美玖)が主催するフェス『Women’s Wellbeing Fes 2025』に特別登壇し、「長期的キャリア」について語りました。

女性は「長期的に働く」ことが幸せにつながる?

会場に集まったのは自分のキャリアに真剣に向き合う30〜40代の300人超の女性たち。

2024年12月にポーラの社長を退任し、会社も退職した及川美紀氏が壇上に立つと、水を打ったように静まり返りました。中には「及川さんの大ファン。及川さんがくると聞いて、大阪から参加を決めました」と語る女性もいました(大手製薬会社勤務・40代)。

「ウェルビーイングとは、長期的にみて幸せ、ということです。女性のライフステージにはいろんなことがある。でも、長期的な幸せはちょっとの不幸は跳ね飛ばせるんです」

キャリアは掛け算、経験を積むほど育つ

大学を卒業してポーラに入社、56歳で社長を退任するまでポーラ一筋。結婚・出産を経て働き続けた及川氏だからこそ語れる「長期的キャリア論」でした。

「キャリアは掛け算です。経験を積むほどキャリアは育ちます」。

だからこそ長期で働き続けることが大切ですが、「女性のライフステージにはキャリアの中断リスクがある」と及川氏は言葉を続けます。

結婚退職はさすがに減ってきたものの、夫の転勤によって自身のキャリアを中断する女性もいます。国内、国外問わず「女性が夫についていく」ケースは多い。このフェスを主催するICOREの代表・安藤美玖氏もその一人でした。夫の海外転勤で自身のキャリアデザインに向き合うことになりますが、当時は将来の働き方を明確に描けず、悩みながらも一度退職を選んだという経験の持ち主。

女性のキャリア中断リスクは、安藤氏のような夫の転勤、そして出産・育児など多岐にわたります。「育児・介護休業法」は1991年に成立し(当時は育児休業法)、その後3度の改訂を経て現在に至ります。施行された1992年の育児休業取得率は49.9%だったのが、2021年では85.1%にまで増加しています(*1)。

制度は整ってきたとはいえ、「仕事と育児の両立が困難」「職場の雰囲気や理解がない」を理由に挙げる女性は多いです。

一方で、転職した女性(30歳〜49歳)が前職を辞めた理由(会社都合を除く)は、「出産・育児」は約1.15%と極めて低い割合に留まっています(*3)。1990年代の出産を機に退職する女性の割合が40%前後で推移していたことを考えると、育児休業法などの法整備のおかげで育児による物理的な離職は激減したことを示しています。

しかし、今は「育児で働けない」というより、「働きながら育児をする上で、職場の環境や待遇に不満がある」という構造に変わってきていることが伺えます。転職理由で最も多いのは、「労働条件、賃金、労働時間・休日(合計)約40.5%」です(*3)。

つまり、女性が長期的に働き続ける上で直面している問題は、「辞めるか否か」から「いかに満足のいくキャリアを築くか」へと変化しているのです。

ちなみに女性の管理職の割合は12.7%(*2)。「このまま会社にいてもキャリアが描けない」と感じる女性は未だに多いでしょう。

それでも、及川氏は「長期的キャリア」を薦めます。というのも、キャリアを中断した場合の収入面での影響が大きいからです。

<大学卒女性の働き方別 生涯賃金(*4)>

ケース生涯賃金の推計額
正社員で休まず勤務し続けた場合2億2,800万円
2人出産・育休取得、フルタイム復帰2億1,600万円
出産後、時短勤務を子ども3歳まで利用1億9,800万円
出産後、時短勤務を小学校入学前まで利用1億7,200万円
出産を機に退職 → 非正規で再就職9,500万円
出産退職 → パートタイムで再就職6,200万円
非正規でずっと働き続けた場合1億6,800万円

キャリアを中断しない及川流のコツ

及川氏はスライドを指し示し「正社員にしがみつきましょうというわけではありませんが、データとして知っておくことは大事です」とした上で、キャリアを中断しないためのコツもしっかり伝授してくれました。

1. 手間抜きのコツ

2. 自己決定権を持つ

「手間抜き」のコツは時短+チームビルディング

一つ目の「手間抜きのコツ」は、時短だけではないチームビルディングにもつながります。いくら育休があるといっても復帰してからは保育園、小学校と、手が離せない時期が続きます。

「手間抜き」は、手間を抜いて空いた時間で愛情を注ぐことができる。また、一人が手間を抜いても、他の人がその分の手間をかけるという分担も可能になります。

つまり「手間抜き」は、

・チーム家事 

・チーム育児 

につながり、それがワーキングマザーの 

・ガス抜きタイム 

をもたらしてくれる。

そして、そのための「ほんのちょっとの経済力」が必要だと語ります。

自分の意思で決めるから自立できる

2つめの「自己決定権」。

「自分は何のために仕事をしているのか、決してお給料のためだけではないはず」と及川氏は問いかけます。社会や人への貢献、スキルアップ、実現したい未来を自分で決定する。自分の意志で働いていくうちに、もっともっと働く意味ができて、経済的にも自立できるようになる。

及川氏自身が感銘を受けた、茨木のり子の詩「倚りかからず」を紹介してくれました。

もはや
できあいの思想には倚りかかりたくない

もはや
できあいの宗教には倚りかかりたくない

もはや
できあいの学問には倚りかかりたくない

もはや
いかなる権威にも倚りかかりたくはない

ながく生きて
心底学んだのはそれぐらい

じぶんの耳目
じぶんの二本足のみで立っていて
なに不都合のことやある

倚りかかるとすれば

それは
椅子の背もたれだけ

「私は自分の意志で自分の人生を決めてしっかり稼ぐ女性を応援したい。増やしたい」という及川氏の言葉がとても印象的でした。長いキャリアの中で、ちょっとの不幸を跳ね飛ばすには、「自分で決めた幸せ」と「ほんのちょっとの経済力」が必要なのだと感じました。

(*1)厚生労働省/令和3年「雇用均等基本調査」より
(*2)厚生労働省/令和4年「雇用均等基本調査」より
(*3)厚生労働省/令和5年「雇用動向調査」より再集計
(*4)厚生労働省/令和5年「賃金構造基本統計調査」より推定(賃金データは「正社員女性・大学卒」の年齢階級別月給をベースに積算/賞与・昇給を含んだ推定値)

写真提供/株式会社ICORE

取材・文/長谷川恵子

この記事を書いた人

長谷川恵子
長谷川恵子編集長
猫と食べることが大好き。将来は猫カフェを作りたい(本気)。書籍編集者歴が長い。強み:思い付きで行動できる。勝手に人のプロデュースをしたり、コンサルティングをする癖がある。弱み:数字に弱い。おおざっぱなので細かい作業が苦手。

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