自分らしく働くって? 「幸せテンプレート」に苦しむ女性たち。実績や達成感だけではキャリアを描けない今どきの事情

自分らしく働きたい、幸せになりたい。そんな思いが誰かの「幸せテンプレート」にしがみつくことになるのかもしれない?
キャリア女性なら一度は「自分の働く意味」について考えたことがあるかもしれない。お金のため、生きていくため、自己実現、理由はさまざまですが、「働く意味」とは一度はぶつかる人生の難問。9月23日(祝)、都内で開催された女性のキャリアを考えるフェス『Women’s Wellbeing Fes 2025』には300人を超える女性が集結。元ポーラ社長の及川美紀氏が特別公演した他、30代、40代を中心とするキャリア女性たちの一体感のあるイベントが行われました。そこで見えてきた「幸せテンプレート」に苦しむ女性たちとは?
目次
「私の価値ってなんだろう?」
このフェスを主催する株式会社ICORE(イコア)は、女性のキャリア支援を専門とするスクールを運営。代表の安藤美玖氏は大学卒業後、地元愛知の大手自動車部品メーカー・デンソーでキャリアを積み、社内結婚後、夫の海外転勤による駐在生活を送る。
仕事はやりがいもあり、実績も自信も深めていた時だけに、「自分だけ残るか、夫について行くか」という二者択一の選択を迫られた時、周囲の期待に後押しされる形で駐在妻を選んだ。
海外生活は気づきも多かったが「自分の価値ってなんだろう」と自分の働き方やキャリアと向き合うことに。帰国後、復職するも「女性のキャリアにおいては同じことが繰り返されるのでは」と感じ、自分らしい働き方を模索、退職を決意。自身のキャリアへの疑問やモヤモヤの解消のためのカリキュラムを構築し、ICOREを立ち上げた。
スクールが特に重きを置くのが「自己理解」。キャリアデザインやキャリアパス以前に「自分らしさとは何かと向き合うことを大切にしています」と安藤氏は言う。

元ポーラ社長・及川美紀氏のキャリア論
このフェスで特別公演を行なった元ポーラ代表の及川美紀氏が訴えたのは、「自立」自己決定権の獲得」。2024年12月、ポーラの社長を退任、「会社を辞めて肩書きがなくなり、今はジョブレスです」とにっこり。そして「お給料のために仕事をしていると、長期的キャリアが築けない」。だからこそ「何のために働くのか?」を自己決定する必要があると訴えました。

新しい働き方の呪縛「幸せテンプレート」
働き方改革やダイバーシティの浸透により、産休・育休の法整備は整えられ、法定休日も整備され、ハラスメントが社会問題化たことで会社のコンプライアンスもずいぶん進みました。格段に働きやすい環境は整った、かのように見えます。しかし、このフェスに参加する女性たちのリアルな声からは「自分らしさ」への課題を抱える現状も見えます。それは皮肉なことに「自分らしく」「幸せになる」というプレッシャーです。
「自分らしく働けていない私や毎日幸せを感じられない私はダメなんじゃないか?」と。
それを安藤さんは「幸せテンプレート」と呼ぶ。誰かの幸せやみんなが考える幸せを自分の幸せとしてインストールし、それを目指す。それが「幸せのテンプレート」です。そのテンプレートにはまった女性たちは、自分の本音と向き合えず、キャリアや生き方にモヤモヤを抱えてしまう。
フェスではスマホからリアルタイムでコメント投稿がモニターに映し出されるインタラクティブな機能も。

問い「幸せの条件とは」
「仕事も生活も家族も全て完璧」
「経済的余裕を作り、持ち家を持つ」
「結婚して子供いないといけない」
「正社員でいる間に産休、育休を取る」
「キャリアを磨き続けて結果を出す」
これに対して、
問い「自分はどうしたい?」
「仕事も生活も家族も全て完璧」
→「もっとのんびり毎日をかみしめたい」
「経済的余裕を作り、持ち家を持つ」
→「身をすり減らす働き方ではなく、自分を喜ばせる働き方をしたい」
「結婚して子供いないといけない」
→「立ち止まりたい」
「正社員でいる間に産休、育休を取る」
→「お金も立場も考えず自分のしたいことをしたい」
「キャリアを磨き続けて結果を出す」
→「独立したい。自分が幸せだと感じる仕事をして自分も人も幸せにしたい」
自分の描く幸せをそのまま突き進める人ばかりではなく、自分の本音に乖離がある人も多い。
自分軸でキャリアをデザインする
ICOREはポジティブ心理学やウェルビーイング(well-being)を取り入れたカリキュラムで、最も重視するのは「自己理解」。「起業したい」「副業を始めたい」という女性たちがスクールにやってくるそうですが、スキルやナレッジを身につける前に、まず「自分らしさ」とは何かを徹底的に探求します。
この日、フェスに参加した製薬会社に勤める小田愛子さんに話を聞きました。
「会社の中で与えられた仕事を通じて貢献することに、これまで大きなやりがいを感じてきました。一方で、新しい環境に単身赴任で挑戦をしたことで、これまでの自分を少し離れた場所から見つめ直し本音と向き合う時間を持つことができました。その経験を通して、“自分のやりたいこと”を追求しながら、これまでとは違う形で社会に貢献していきたいという思いが芽生えました」
小田さんは、年明けから新しい働き方で自分の夢に向かって挑戦するそうです。
「幸せのテンプレート」から抜け出すには、自分の外にあった軸足を、自分の内側に戻す必要がありそうです。
安藤さんの提唱する「自己理解」や及川さんの「自己決定」が、「幸せテンプレート」からの呪縛から逃れるための第一歩になるかもしれません。
文・取材/長谷川恵子
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この記事を書いた人

- 編集長
- 猫と食べることが大好き。将来は猫カフェを作りたい(本気)。書籍編集者歴が長い。強み:思い付きで行動できる。勝手に人のプロデュースをしたり、コンサルティングをする癖がある。弱み:数字に弱い。おおざっぱなので細かい作業が苦手。









