3分診療でも医師と有意義なコミュニケーションを取るコツは、ビジネスシーンと同じ?

「医師は忙しそうだから質問しづらい」。多くの患者さんが抱えるこの不安に対し、がん研有明病院の高野利実医師が回答する。医師が患者に求めるコミュニケーションの形、そしてより良い治療に繋がる「会話術」とは。

プロフィール
医療コンサルタント鈴木英介
株式会社メディカル・インサイト/株式会社イシュラン 代表取締役。東京大学経済学部、ダートマス大学経営大学院卒(MBA)。住友電気工業、ボストンコンサルティンググループ、ヤンセンファーマを経て、2009年に「“納得の医療”を創る」を掲げ、「株式会社メディカル・インサイト」を設立。著書に『後悔しないがんの病院と探し方』(大和書房)がある。
病気と向き合う患者さんにとって、主治医とのコミュニケーションは治療の質を大きく左右します。しかし、「聞きたいことがあっても、なかなか質問できない」という声は後を絶ちません。今回は、がん研有明病院で多くの患者と向き合ってきた乳腺内科部長の高野利実医師に聞きました。インタビューは『後悔しない がんの病院と名医の探し方』(大和書房)を上梓したばかりの医療コンサルタントであり、がんの病院・医師情報サイト「イシュラン」を運営する鈴木英介氏。
目次
あらかじめ「聞きたいことは3つ」と医師に伝える
鈴木英介(以下、鈴木): 「主治医が忙しそうで聞きづらい」と感じる患者さんが、意外と多いようです。そんな時、診察中に主治医に質問してもいいものでしょうか?
高野医師(以下、高野): 基本的に、「聞いてはいけない質問」はありません。患者さんが聞きたいと思うことは、どんな些細なことでも、遠慮なく聞いてほしいと思っています。もちろん、答えに窮する質問もありますが、その時は正直に「私にもわからないんですよ」「簡単に答えられるものではありません」などと伝えます。患者さんの不安や疑問をきちんと受け止めた上で、「一緒に悩みましょう」という姿勢こそが、私たち医師には求められるプロフェッショナリズムだと考えています。
「聞きづらい」と感じるのは、短い診察時間の中で、あれこれ質問しては悪いのではないかという患者さんの遠慮から生まれてしまう感情でしょう。それに対する私の具体的な提案は、診察の前に「今日はこの3つのことを聞きたいです」と、聞きたいことに優先順位をつけて、数を絞ってメモに書いておくことです。そうすると、私たち医師も「今日はこの内容について深く話せるな」と全体像を把握でき、効率的に話を進められます。患者さん自身も、漠然とした不安を抱えるのではなく、本当に聞きたいことを見失わずに済みます。
病気と関係ない雑談がコミュニケーションを円滑にすることも
鈴木: 確かに、診察時間が限られている中では、患者さんも工夫が必要そうですね。より良い診察時間にするために、患者さんはどんなことを心がけたらいいですか?
高野: やはり、質問を整理しておくことは有用だと思います。想定されている時間も意識しながら、それにあわせて質問することも重要です。待合室に患者さんをたくさん待たせている中で、想定以上に時間がかかってしまうと、医師も焦ってしまい、カリカリすることもあります。
でも、その場で生じた疑問を聞いてはいけないということではないですので、聞きたいことはきちんと聞くようにしましょう。また、いつもの診察時間では聞けないような内容だったり、一度じっくりと時間をとって話を聞きたかったりする場合は、そのための診察予約を入れてもらうようにお願いするのがよいかもしれません。
おススメしたいのは、雑談です。カリカリして心の余裕を失っているような医師にこそ、心の余裕を取り戻すために、雑談が有用です。治療とは直接関係ないような、だけど、自分の心が動いた何かがあれば、それを伝えてみましょう。楽しかったこと、大切にしていること、ちょっとした出来事。自分の推しについて熱く語るのもありです。
つい先日も、かなり厳しい状態にある患者さんが、北海道旅行の話をしてくれました。厳しい話をした後で少し重い雰囲気だったのですが、急に目を輝かせて、食事も観光も楽しめたと写真を見せてくれて、「ああ、良い旅だったんですね」と話が弾み、場の空気が和らぎました。そうした何気ない会話から、患者さんの日常や人柄を垣間見ることができ、それが結果的に患者さんと医師の信頼関係を構築する上で役立つこともあります。患者さんが大切にしているものを医者が知るというのは、治療方針を考える上でも重要なことです。
セカンドオピニオンの前に、主治医に直接聞いてみる
鈴木: 「主治医に委ねていいのか?」という疑問が湧いたとき、患者はどうしたらいいでしょうか?
高野: 提示された治療方針に疑問や不安を感じたら、まずは目の前の担当医にそれを尋ねてみることが重要です。説明を聞いて納得できればそれでいいですし、十分に納得できない場合は、セカンドオピニオンも検討してみましょう。
セカンドオピニオンというと、転院のために別の病院を受診することだと思われがちですが、本来は、転院は想定せずに、今の担当医の「ファーストオピニオン」を踏まえた見解を聞くものです。多くの場合、担当医の提示する治療方針は適切なものであり、私のところにセカンドオピニオンで来られた患者さんにも、そう説明します。それで納得できて、もともとの病院で安心して治療を受けられる、というのが理想的なセカンドオピニオンの形です。
一方で、セカンドオピニオン外来に来られる患者さんの中には、担当医と相性が合わない、全然話を聞いてくれない、ほとんど説明をしてもらえない、といった悩みを切々と訴える方もいます。これはなかなか深刻な状況ですが、まわりの医療者に頼ったり、場合によっては、担当医を代えてもらったり、病院を変わることも検討したり、そんなアドバイスをすることもあります。
主治医とのコミュニケーションエラー回避のコツとは?
高野: 多くの患者さんが、医師の肩書きや病院の知名度で「良い医者」だと判断しがちですが、本当に大事なのは、実際に会ってみてわかる「相性」や「コミュニケーションのしやすさ」です。診察室というのは、患者さんと医療者が、人間として向き合い、語り合う場所であり、担当医は、不安やつらさを共有し、その解決策をともに考え、取り組むパートナーです。
患者さん側から「今日は〇〇について話したい」「〇〇が不安で」と、自分の気持ちを率直に伝えてくれることが、医師にとっても治療の方向性を定める大きな助けになります。
がんにまつわるイメージのために、多くの患者さんは、病気そのものよりも、イメージにさいなまれているように思います。不安な気持ちを伝えていただくことで、医療者からは、気持ちがラクになるような考え方のアドバイスができることもあります。まずは、自分の気持ちを伝えるところから始めてみてはいかがでしょうか。
鈴木: ありがとうございました。患者さんの「知りたい」という気持ちを尊重し、それを引き出すための工夫を共に考えてくださる。まさに、治療の本質は患者さんとのコミュニケーションにあるということがよく分かりました。

担当医との円滑なコミュニケーションの3つのコツ
- 聞いてはいけないことはない
- 「聞きたいことは3つあります」と先に伝える(メモがあるとなお良い)
- 治療方針の不安はストレートに聞く
文/長谷川恵子
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この記事を書いた人

- 「好きや得意」を仕事に――新しい働き方、自分らしい働き方を目指すバブル(の香りを少し知ってる)、ミレニアム、Z世代の女性3人の編集部です。これからは仕事の対価として給与をもらうだけでなく「自分の価値をお金に変える」という、「こんなことがあったらいいな!」を実現するためのナレッジを発信していきます。









