利尻島での昆布干しバイトにエリート京大生の応募が殺到するわけとは
京都大学で「利尻島京大昆布干しバイト」が密かなブームになっている。 京都大学の学生が、利尻島まで行って利尻昆布を干す、というバイトだ。漁師が水揚げした昆布を、多い時で1日4000枚ひたすら並べて干して回収する。 「利尻島 […]
京都大学で「利尻島京大昆布干しバイト」が密かなブームになっている。
京都大学の学生が、利尻島まで行って利尻昆布を干す、というバイトだ。漁師が水揚げした昆布を、多い時で1日4000枚ひたすら並べて干して回収する。
「利尻島京大昆布干しバイト」に参加する学生たちが共同生活を送る通称「京大荘」を取材した。この時は、京都大学の学生8名と北海道大学から2名、大阪大学から1名の合計11人がバイトに参加していた。
目次
京大昆布干しとは?
そもそも「京大昆布干しバイト」は利尻島の漁師、小坂善一さん(47歳)が人手不足に窮して、知人を介して京大生にむけてバイトを募集し始めたのが発端だ。
水揚げした利尻昆布を1枚ずつ天日に干し、回収するというもの。利尻昆布は2〜3メートルほどの長さに成長する。それを1枚1枚重ならないようにきれいに並べていく。
昆布漁のある日は、朝3時から昆布干しをはじめ、日の出には干し終える。天日で乾燥するのを待って、午後3時には回収する。
バイトのある日は昆布の量にもよるが、3〜5時間労働になる。
バイトの条件は、時給1800円。宿泊完備、食料支給。利尻までの交通費は自腹。雨天中止というものだ。
時給1800円でもお金より大切なもの
時給1800円は、東京都の最低賃金1113円を上回ることを考えれば「おいしいバイト」ということになる。
しかし、それだけで往復の飛行機代を自腹で払ってまで利尻島にくる理由とはなんなのか。
ちなみに伊丹から利尻までの往復の航空券の相場は3〜40,000円。時給1,800円で1日5時間働いたとしても、5日間はタダ働きになる。
「2年前に2週間に来た時は、3、4回干したかな。交通費回収できなくなって、小坂さんが可哀そうだからって、ちょっと包んでくれたんです。なので、今回は北大で学祭に出店して、交通費を若干回収してからここに来ました」。農学部4回生の塩崎翔太くんは2年前の教訓を活かして、戦略を練っての二度目の参加だ。
「僕は“金じゃないものが得られる”って言ったらなんか安っぽくなっちゃうけど、大学生でしかできないですからね、こういうのは。逆張りです」と語るのは北海道大学理学部2年生の菅野陸都くん。
京大生なら昆布干しより稼げるバイトがあるのではないか、という質問に、学生たちはきっぱり答えた。
「お金だけでバイトを選ぶのは、つまんないですよね」
「ここには金稼ぎに来てるわけではないです」
「おまけでお金がついてくるみたいな感じ」
この「京大荘」の住民が、お金に困っていない余裕のある大学生としても、何を求めてここに来るのだろうか。
互いに求めあう「面白い人」
「京大って変な人がいっぱいるって印象だと思いますが、入ってきて意外といないなと感じたんです。どこにでもいそうな普通の大学生ばっかりでそれが残念だった 」と切り出したのは教育学部二回生の黒田暁(くろだあきら)君。
「京大昆布干しのビラ見た時に、ここに来るやつは絶対面白いやつに決まってるって思って、面白い人に会いに来たって感じですね」
今回、大阪大学から一人参戦したのは法学部・二回生の寺本宗正君。「ここに来る理由って人なのかなと。雇ってくれる小坂さんが魅力的だったりとか、地元の人もなんかめっちゃ優しいです。それに京大荘に偶然集まったメンバーも根底に人の魅力がある。時給がいいだけだたら、毎年こないはずです」
前出の塩崎くんも人との繋がりを重視している。「京大昆布干しは雇い主が漁師なので、地域の人に雇われることで、その地域の人間に受け入れられるし、地域の人といろいろ話ができるのが一番いいところかなと思います。住み込むことでその地域を知ることができるのも魅力です」
「僕は京大の熊野寮に入っています。熊野寮はめちゃくちゃ面白いんです。でも面白すぎて関係の輪が小さくなる傾向があって。なるべくいろんな人と知り合いたいので、京大荘には面白い人が集まるので、参加しています」。去年に続き2回目の参加の三浦聖太郎くん(文学部三回生)。
「親友が去年、参加しました。話を聞いてすごく面白そうだったので、休学して今ここにいます。就活を終わらせてから来る算段でしたが、今も利尻で就活中です」と語るのはギャップイヤー中の岡村日花里さん(人間総合学部五回生)。
たかがアルバイト、されとアルバイト。アルバイトを通して得るものがかけがえのない出会いや思い出になることを、ここに集まる学生たちは直観的にわかっているのかもしれない。
今、なぜ一次産業でバイト?
利尻島で昆布干しというと、リゾバ(リゾートバイト)と混同されるが、昆布干しは一次産業体験だ。今、環境問題や食料問題、持続可能性は若者にとっては当たり前の関心ごとになっている。
塩崎くんは、もともと里山が好きで、自然と触れ合って生きていきたいと考えている。去年は仕事を手伝う代わりに宿と食事がつく、有機農業の農家に住み込みをしたという。昆布干しも「自分が一次産業に関わる側になれる」と感じている。
三年間の休学を経て文学部の七回生の今井壮太くんは、2回目の参加。「最初は新規就農を考えていました。それで全国の農家さんやおもしろいところで修行したいと思い休学したんです。その1年目の夏に京大昆布干しに参加しました。1ヶ月半滞在して、「あー、楽しい!」ってなって、その後もサマーキャンプとかを手伝ってました」
6年前から始まった京大昆布干しバイトだが、口コミが口コミを呼んで、最近では他校からも参加者がくる。北海道大学・経済学部二年生の西脇侑希くんもその一人。「私は農林水産を大学いる間にコンプリートしたいなと思っています」。
面白い人と出会いたい、面白いことがしたい、と集まった学生たちが一夏を過ごす京大荘。アルバイトであっても、お金以外の何かに価値を見出すところが京大生の京大生たるゆえんかもしれない。
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この記事を書いた人
- 猫と食べることが大好き。将来は猫カフェを作りたい(本気)。書籍編集者歴が長い。強み:思い付きで行動できる。勝手に人のプロデュースをしたり、コンサルティングをする癖がある。弱み:数字に弱い。おおざっぱなので細かい作業が苦手。