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ハーバード大学精神科医が教える、メンタル的にギリギリな日々を抜け出す「再評価」という思考法

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ハーバード大学准教授で精神科医でありながら、メンタルケアやジェンダーなどの社会問題についてのオピニオンリーダーとしても注目される内田舞さんが上梓した『まいにちメンタル危機の処方箋』とは?

内田舞

プロフィール

内田舞

小児精神科医、ハーバード大学医学部准教授、マサチューセッツ総合病院小児うつ病センター長、3児の母。

自分で自分のメンタルケアをすることの重要性は、もはや誰もが知るところ。ふだん大丈夫そうに見える周囲の人たちも、心の中を見てみたら、毎日の仕事や家庭のアクシデントに追われて、意外とギリギリな精神状態だったりするものです。

 内田舞氏の『まいにちメンタル危機の処方箋』(大和書房刊)は、「再評価」という思考プロセスをベースにしたメンタルケアの手立てを、イラストをまじえてわかりやすく解説しています。ざわつく心をおさえて毎日穏やかに過ごし、仕事でも家庭でもハイパフォーマンスを続けるための「再評価」とは、いったいどんなものなのでしょうか。

まずは感情を捉えてみる

「再評価」とは何かを知る前に、セルフケアに取り組むときにはまず、自分の「感情」を意識してほしいと内田氏は言います。

 それは、「怖い」「不安」「悲しい」「緊張する」などのネガティブな感情が、私たちのメンタル危機の原因になっていることが多いからです。だからこそ、感情がなぜ湧いてくるのかを知り、その取り扱い方が分かれば、日々のメンタルの浮き沈みに対して、ずいぶんうまく付き合えるようになります。

 感情とは何かを考えるために、この本のプロローグで、イラストとともに紹介されるストーリーを引用したいと思います。

ある精神科医は言いました。

「感情は“生きろ!”と叫んでる」

命の危険、生存への道すじを教えてくれる。

怖い → 逃げろ! 闘え!

とかね。

さらに精神科医は言いました。

「でも感情は、けっこう間違える」

感情は、間違える?

「感情が間違える」とはどういうことか理解するために、ここで一つ、イメージしてみましょう。

 あなたは一人で山登りに出かけています。順調に山を登っていると、木のかげから突然、ヒグマが現れました。

 このとき、あなたの脳内では、「怖い」という感情が瞬間的に湧いてくるはずです。この「怖い」という感情に脳幹が反応し、呼吸を荒くしたり、心臓の鼓動を速めたりして、瞬時に「闘争か、逃走か」という体勢をとります。つまり感情は、思考によって悠長に判断している暇がないその場の状況を、「怖い!(危険だ!)」と瞬間的に判断(評価)しているわけです。

 基本的に、自身の生命や生殖が脅かされるときにはネガティブな感情が、その逆の場合にはポジティブな感情が引き起こされます。つまり、感情は私たちの命を守るために瞬時に状況を判断してくれる、すぐれた機能なわけです。

時代に合わない評価をしてしまう

でも実際には、私たちは〝感情に振り回される〞という経験を頻繁にします。なぜ、感情が私たちにとって好ましくない働きをしてしまうのでしょうか。

 その理由を、この本ではこう説明しています。

「山でクマに遭遇する → 恐怖という感情がわく → 逃げる」という判断は、百人いれば百人が「そうする」と答えるくらい明快です。しかし、現代社会では、昔のように肉食獣に襲われるといった生存危機は、日常生活においてほとんどありません。

(略)

実際の私たちの日常においては、「短期的な危険回避のためのネガティブな感情」よりも、「長期的な視点で客観的に物事を判断する思考」のほうがずっと重要な場面が多いのですが、脳の仕組みと実社会に乖離があるため、今の社会にはそぐわない判断をしてしまうということです。

 ここでまた、現実の世界に戻って考えてみましょう。

 たとえば、あなたが会社で苦手な上司と顔を合わせたときに、「怖い」「嫌だな」と感じたとします。それがあなたの命を脅かす状況であれば、感情によるとっさの判断で「闘争か、逃走か」を選択すべきですが、きっと多くの場合が、命の危機におよぶ状況ではないと思います。

 その場合、自分に湧いてきた感情が、いまの自分の状況に対して本当に合っているものなのか、一度立ち止まって考え直してみたほうが懸命です。

 自分と相手との関係性、それぞれが置かれている状況、自分が生きるうえで何を大切にしているか、自分が感じた感情にはどんな背景があるのか…。様々な角度から考え直してみたとき、「そこまで気にすることはない」「相手の問題だから私には関係ない」とラクになれることもあるでしょうし、「相手に直接訴えて、この状況を改善しよう」と、「闘争か、逃走か」ではなく「働きかける」という第3の選択肢を選ぶことができるかもしれません。

感情を「再評価」してみる

 そう、まさにこの「一度立ち止まって考えてみる」というプロセスこそが、脳神経科学の分野で注目を集めている「再評価」です。ある状況に対して感情がとっさに下した最初の評価(primary appraisal)に対して、それが本当に正しいものだったのかどうか、一度立ち止まって再評価(re-appraisal)する、ということです。

たとえば、あなたが孤独や不安を感じていて、それに苦しんでいるとします。たしかに、人間は群れで社会をつくる生き物なので、はるか昔の時代であれば、群れから外れることや、群れのリーダーから嫌われることは、自分の生命の危機に直結しました。そのため、強い孤独や不安という感情が湧き、私たちに行動を促しました。

 ですが、「いま自分を取り巻くコミュニティーにおいて、そこから離れることが本当にあなたにとって致命的なものなのか、そのリーダーから嫌われることで本当に多くのものを失うのか、あるいはその人は本当にリーダーなのか、あらゆる方向から再評価してみてください」とこの本には書かれています。

ネガティブがわいたらチャンス

 「再評価」は、言うが易しで、暮らしの中で実際にやってみようとすると、けっこう難しく感じるかもしれない。そう内田氏は言います。それでも、少しずつ慣れていくことで、日々のストレスに対して上手に向き合っていけるようになるはずです。

 そう難しく考える必要はありません。要は、「どう捉えるか」ということ。 まずは、自身の感情に気づき、じっと見つめ直し、客観的にモニターしてみることから始まります。

 ネガティブな感情がわいてきたら、それは再評価のチャンス。そんなふうに捉えてみてください。

この記事を書いた人

I am 編集部
I am 編集部
「好きや得意」を仕事に――新しい働き方、自分らしい働き方を目指すバブル(の香りを少し知ってる)、ミレニアム、Z世代の女性3人の編集部です。これからは仕事の対価として給与をもらうだけでなく「自分の価値をお金に変える」という、「こんなことがあったらいいな!」を実現するためのナレッジを発信していきます。

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