プロがおすすめする50代キャリア女性の副業は、「人脈と経験」のため?
定年を意識し始める年代になって、セカンドキャリアを意識する女性は増えています。そのための準備や心構えについて識者が解説。
プロフィール
女性起業家西村美奈子
1986年の男女雇用機会均等法の施行以来、長く働く女性の数は増加しています。今では、定年まで勤め上げたり、セカンドキャリアにシフトする女性も当たり前にみられるようになりました。
一方、役職定年を迎えるあたりから、今後のキャリアに悩む女性も少なくありません。先行するロールモデルもいないなか、これからの舵取りはどうすべきでしょうか。
そこで今回は、女性のセカンドキャリアに詳しい、一般社団法人プロティアン・キャリア協会の認定ファシリテーター、(株)Next Storyの代表取締役・西村美奈子さんに解説していただきました。
目次
第一優先で目指すのは「お金ではない」
私は、新卒で入った富士通を早期退職して、会社を立ち上げました。「マチュア世代」と呼んでいますが、定年を意識し始める年頃の女性に向けたセカンドキャリア研修を行っています。
そこで話すテーマの1つに、お金のことがあります。お金のことを無視してセカンドキャリアを考えることはできませんし、なにより研修の参加者は、将来に対してお金の不安をすごく持っているからです。
でも、セカンドキャリアを考えている方は、若い頃から長年働いています。貯金はあるし、退職金も出るし、厚生年金もある。その意味では、お金に対する不安は漠然としたもので、まずその不安感を払拭するのが大事です。
自分はどれぐらいのお金が必要となるかは、人によって違います。今後必要な金額を、きちんと考えることで、不安は軽減されるものです。もちろん、お金はあるに越したことはないのですが、セカンドキャリアにおいて第一優先で目指すのは「お金ではないよね」とも伝えています。
さらに研修の場では、自分はどんなことが得意で、何がしたいのかを見極め、目標が決まったらどういう行動を起こしていくか、そのためのアクションプランを作っていきます。お金以上に大事なポイントはそうしたところにあります。
定年前の働き方に男性との違いはあるか
40代終盤から60代初めくらいのいわゆるマチュア世代の働き方・生き方については、学校を出てからずっと働いてきた女性だと、男性とさほど変わらないと思います。
ただ、お金や肩書にこだわらないで自分のやりたいことを追求するのは、女性の方が柔軟にできるかなと思います。
もう1つの男性との違いは、50代になると、多くの女性は子育てから解放されることです。それで可処分時間が増え、心の余裕も生まれ、自分のことを見つめ直す機会が出てくるのですね。「今後は、思いっきり自分がしたい仕事に取り組む」とか、そういう発想も生まれやすい年代です。
さて、セカンドキャリアと言っても、別に会社に残ることが悪いというわけでありませんし、経済的なことを考えれば、残った方がいい場合も多いです。
けれど、残ると決めたときに、役職定年で肩書も外れた後で、職場でどのように貢献していくか、改めて考える必要はあるでしょう。
女性同士の交流でキャリアが開ける
マチュア世代の女性は、同じ立ち位置とか悩みを抱えている同性同士の交流がとても必要だと感じます。私の研修でも、グループワークで他の女性参加者の話を聞き、自分の話をシェアする機会をもうけています。それで、アドバイスをもらったり、共感を得たりと発展し、それで人生の展望が開ける人もいます。
仕事中心の人生を送ってきたけれど、定年後も含め、これから先自分はどうしたらいいのだろうかという悩みを持つ女性は本当に多いです。職場では、同年代以上は男性ばかりで、お手本となる人がいないというのもあります。それゆえ、将来を模索していくきっかけを作りたい、職場以外で悩みを打ち明けられる仲間が欲しいというニーズがあるのです。
ただ、定年前後の生き方なんて、正解・不正解は人それぞれ。万人に共通する正解なんてものはないので、「こういう考え方もあるよね」などと示唆しつつ、最後はご自身で見つけていってもらうかたちです。
「やりたいこと」はやってみる
法政大学の田中研之輔教授との共著『プロティアン・シフト』では、「本当にやりたいこと呪縛」と記していますが、「本当にこれが私のやりたいことか」「もっと別の道があるのでは」と迷って、先に進めない方は結構います。
そのことで相談を受けたら、ひとまず「それが本当にやりたいことかどうか、最初はわからないから、やってみたら」と返します。それに対し、「もう間違っちゃいけない。もう若くないし、これが最後のチャンスだから……」というふうに 考える方が多いのですね。
やりたいこと探しは、若者だけの特権ではないと思います。やってみて違うと感じたら、軌道修正すればいいのですから。その前提で、少しでも動いてみてはどうでしょうか。ちょっとでも興味があればやってみればいい。それで、やはり好きだったと実感するかもしれませんし、あるいは違うものが見えてくることがあります。それに、やりたい事はひとつとは限りません。
「本当にやりたいことは何だろう」という考えに囚われないことが大事です。
経験・人脈を得るための副業のすすめ
機会を見つけて、副業や兼業はぜひなさってください。
子離れや役職定年といった出来事は、別の視点で見れば、責任が多少とも軽くなり、長時間の拘束からも解放される面があります。ですから 、別の事にチャレンジする 時間も出てくるはずです。
もし勤務先に副業禁止規定があるなら、お金はもらわないで何かをやってみる方向性を検討してみるといいでしょう。金銭報酬は得られなくとも、経験は積めるし、人脈も作れます。
副業は禁止でなく、ゆくゆくはそれなりのお金が入る見込みがあれば、将来はそちらにシフトしていくこともありでしょう。ただそれには、自身が希少性のある存在となり、かつ世の中のニーズがある分野を目指す視点が必要になります。
ひとつ実例を挙げましょう。私の講座の研修生だった人ですが、大きな病気をされ、健康の大切さをすごく痛感したそうです。それで、健康とかウエルネスの分野で何かできないかと模索しました。今は、勤務先に許可を取ったうえで、ショッピングモールで開催される相談会でウエルネスコーチをしています。その道で独立する選択だけでなく 、勤務先でウエルネスに関連した業務につけないかとも考えているようです。同じようなことを考えている人は社内におらず、会社の潜在ニーズとマッチすれば、1つの成功モデルとなるでしょう。
ちなみに、弊社の研修を受けてくださる方は、資格を取ってキャリアコンサルタントを目指す人が多いのです。自身が何十年と働いてきて、いろいろなことが見えてくる。その知識と経験をもとに、キャリアで悩んでいる若い人たちの助けになりたい、と。ただ、資格を取ってすぐ仕事になるとは限りません。とはいえ、ボランティア的にキャリアの相談に乗ったりして経験を積んでいくのは大事なことではないでしょうか。そのうち、何らかのチャンスも見えてくるかもしれません。
やりたいかどうかで判断を決める
現役バリバリの頃は、収入の高さが、能力の高さを測る物差しと考えたこともあるかもしれません。特に部長以上のポジションに行くと、特に女性の場合は、周りからちょっと特別な存在という目で見られるので、無意識のうちに「私は、結構できる人」と思いこんでしまうことがあります。
その意識のまま、転職しようとしてもうまくいかず、「すごいショックだった」という話を聞きます。男性でも面接で「何ができますか」と聞かれ、「部長をやっていましたので、部長ができます」みたいな笑い話があります が、女性で役職についていた方は特に注意が必要です。
対して定年後は年金も出るし、「お小遣い稼ぎができればいいな」くらいの気持ちだと、「これは!」というものが見つかりやすいです。また、居心地の良いコンフォートゾーンにこもらず、新しい世界に踏み出す気持ちも持ってください。
私の話になりますが、現在、社業とは別に東証プライムの企業で社外取締役もしています。富士通時代は部長の立場で退職したので、正直言ってお声がけいただいた時は戸惑い、私にその職責が務まるかと悩みましたが、最終的にはその会社に貢献したいという思いが強くなり、お引き受けする決心をしました。
自分には未知の分野・業界で日々学ぶことが多く、会議資料を見るたびに、わからない
ことを一生懸命調べて、なんとかついていく感じですが、それで自分の世界が広がるし、また、私の経験や視点からの発言が、その会社の方たちに何らかの気づきや行動変容を与えることができればと、やりがいを感じています。
セカンドキャリアで最も重要なポイントは、できる・できないより、やりたいかどうかです。「やっぱり無理かな」と引き下がってしまうのではなく、やりたい思いがあれば、決心した上でやってみればいいでしょう。
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この記事を書いた人
- 都内出版社などでの勤務を経て、北海道の老舗翻訳会社で15年間役員を務める。次期社長になるのが嫌だったのと、寒い土地が苦手で、スピンオフしてフリーランスライターに転向。最近は写真撮影に目覚め、そちらの道も模索する日々を送る。