声の高さ、話す速さ、滑舌でもう悩まない。ビジネスに効果のある「声の出し方」が身につく方法
頑張って好かれやすい声を練習するよりも、自分の「地声」を出す方がビジネスでは効果がある。長崎大学准教授/スピーチコンサルタントの矢野香さんが、声の高さや話す速さ、滑舌などの悩みに対する解決法を紹介。
プロフィール
長崎大学准教授、スピーチコンサルタント矢野香
今、ChatGPTによって文章が自動生成される一方で、人とのコミュニケーションでは「話す力」が圧倒的に求められています。プレゼン、会議、コミュニケーションなどで「話す立場」におかれる40代キャリアに向けて、長崎大学准教授・スピーチコンサルタントの矢野香氏に専門分野である心理学・コミュニケーション論の研究とNHKキャスターの経験をもとに「爪痕を残す話し方」を学ぶ連載です。
* * *
スピーチコンサルタントの矢野香です。「話し方」はコミュニケーション能力であると同時に「ビジネススキル」です。今回はキャリアアップしたい女性に、相手から信頼を得るのはどんな声か。また、話す速さは変化をつけるのが重要なことや、滑舌の悪さは直せることをお伝えします。
目次
一番信頼されるのは「地声」
女性の声の悩みとしてよくお聞きするのは、「声が低い」こと。「女性なのに」と悩んでいる方も多いようです。これはバイアスによる思い込みでしかありません。グローバルにみても日本女性は声が高すぎる傾向があるといわれています。女性アナウンサーの研修では、そのほとんどがより低い声を出せるように訓練します。特に報道、ニュースを担当するアナウンサーは、低めの音域を鍛えます。
そもそも、声が高すぎる、低すぎると悩む必要はありません。なぜなら、ビジネスにおいて相手から一番信頼を得る声とは、あなたの「地声」だからです。地声とは、その人が生まれつき持っている声のことで、身長や体格、頭の形などから決まります。
心理学では、人は初対面の相手に対し、「この人はこんな声の持ち主のはず」と、無意識のうちに予測するといわれています。相手の身長や顔つき、体格といった特徴を、今まで出会ったことがある人と比較し地声を予測するのです。そのため、地声よりも高い声を出している人に対して媚をうっているなと感じたり、低い声を出している人に、何か怒っているのかな、と思ったりするのです。予測に反した声を聞いた場合、嘘をついたり隠し事をしたりしているように伝わり、信頼を得ることは難しくなります。声の高低よりも、自分の姿形にあった地声を出すことが大事といえるのです。
とはいっても、自分の地声を把握している方は少ないことでしょう。地声の高さを確認する簡単なワークをご紹介します。
地声を知るワーク
- 「あ~」と言いながら寝起きのような大きなあくびを1回する
- 本当のあくびが自然と出てくるまで何回も続ける
- 「あ~」という瞬間の、喉が開放され口の中がパーッと開くような感覚を確認する
- 口の中が広がった感覚になったら、3メートルほど離れた場所にいる人、ペット、植物などに向かって「おはよう」「こんにちは」などと声をかける
このときの「あ~」「おはよう」「こんにちは」などと言ったときの声があなたの「地声」です。
人の身体は楽器のようなもの。バイオリン属の楽器には、バイオリン、ヴィオラ、チェロなどがあり、大きさによって音域が違います。管楽器も同様です。同じように、人も身長や体格、顔かたちによって声の高さは変わるのです。自分の身体を楽器だと思って、自分にしか出せない自然な美しい地声を奏でましょう。
話す速度に変化があると聞き手を惹きつける
「早口」と「ゆっくり」、どちらで話すのがいいのか。この悩みもよくお聞きします。結論から申し上げますと、残念ながら、どちらも不十分。
ビジネス場面でおすすめしたいのは、「早口」でも「ゆっくり」でもなく、話す速度を変化させること。話を聞いている相手は、ずっと同じ口調で話し続けられると、どんなに興味深い話であっても飽きてしまいます。話す速度が変わるメリハリのある話し方をする人の話には惹きつけられ、リーダーシップを感じます。
では、どのようにして話す速度に変化をつけるのか。ステップにわけてご説明しましょう。
ステップ①:現状把握
今の自分がどの程度の速さで話しているのかを確認します。セルフモニタリングとして、会議やプレゼンテーションなど人前で話しているところを動画撮影します。スマホやボイスレコーダーで音声だけ録音するのでも十分です。
その後、文字に書き起こし1分間に何文字を話していたか換算します。自分の話しグセを把握するという意味では、自分で聞きながら文字起こしをするのが理想ではありますが、AIなどのツールを使うと、簡単に文字起こしができます。
ステップ②:基準値と比較する
基準値は、1分間300文字(漢字かな交じり文)。これは、NHKアナウンサーがニュースを読むときの基準として訓練する速さです。私の研究でとったデータでは、一般的なビジネスパーソンの男女平均が1分間480文字。スピーチトレーニングをした方の平均が360文字でした。1分間300文字は、かなり遅くゆっくりと感じるかもしれません。
ステップ③:速さを変化させる
1分間300文字を話すときの目安とします。そして、よりゆっくり、より早くと速度変化をつけます。変化をつける部分は、強調したい部分や情熱をこめたい部分です。どこでより早口にして、どこでよりゆっくり話すのかがあなたの腕の見せ所。唯一の正解はありません。話す内容や聞き手に合わせて工夫します。
一例として、おもわず相手が話に引き込まれる理想的な速度変化の型をご紹介しましょう。
「ジェットコースター型」と私が呼んでいる型です。具体的には「ゆっくり」「早く」「ゆっくり」の順番で変化させます。ジェットコースターは、ガタンガタンとゆっくりと滑りだし、高いところでスピードが上がり、また最後はゆっくりと戻って終わりますよね。ジェットコースターの速さをイメージして話せば、メリハリがついた伝え方ができます。
話す速度を変化させるときの例
「ジェットコースター型」の速度変化を例文でご説明しましょう。
話す側
【ゆっくり】
「自分の声が高すぎる、または低すぎると悩む必要はありません。
なぜなら、ビジネス場面では、地声で話すほうが信頼を得やすくなるからです」
(最初に結論を短くゆっくりと伝える)
【徐々に早く】
「たとえば、初対面の人ばかりのあつまりに参加するとき。自分を良く見せようとして、いつもより女性らしい高めの声を出すと媚びを売っているような印象を与えてしまいます。
心理学では、人は無意識のうちに相手の身長や顔つきなどの特徴から、相手の地声を予測し、予測と違う声の持ち主には違和感を持つといわれています」
(興味をもたせるようにテンポよく詳細を伝える)
【ゆっくりに戻す】
「ですから、ビジネス場面では、声について悩むよりも、地声をしっかり届けられるよう練習するほうが良いのです」
(まとめとして、結論を再度ゆっくりと繰り返す)
聞く側
【ゆっくり】
「うん、うん」「そうなんだ」
(しっかりと聞いていることを伝えるために、ゆっくりとした相槌を繰り返す)
【徐々に早く】
「えっ! そんなことがあったの! もっと詳しく聞かせてよ! 」
(話に興味を持っているという感情を伝えるために変化をつける)
【ゆっくりに戻す】
「それは大変だったね。応援するから何か私にできることがあったら言ってね」
(共感を伝えるため、また、強調したい部分なので変化させる)
一口にジェットコースターといっても、らせん階段のようなレールの上を回転するタイプ、レールに沿って動くだけでなく座席自体も回転する四次元タイプなど、その種類はさまざま。お目当てのジェットコースターに乗るために、わざわざ遠方から訪れるという方も多くいます。ぜひあなたも、あなたにしかできない「ジェットコースター型」の話し方で、聞き手を惹きつけていきましょう。
滑舌の悪さの解決法
甘えたような、舌ったらずの話し方になってしまう滑舌の悪さも、話し方の悩みのひとつ。
プライベートでは問題にならない滑舌も、ビジネスにおいては「頭が悪そう」「仕事ができなさそう」と思われるのでは、と心配する声を聞きます。
滑舌の悪さの原因は、舌が上手に使えていないことです。舌の力をチェックするには、巻き舌。あなたは「トゥルルルルルル」という巻き舌をどのくらいの長さ続けることができますか? 理想は、息が続かなくなるまで巻き舌を続けられること。舌が上手く使えていないと、まだ息は続いているのに、舌がもつれて巻き舌が止まってしまいます。40秒~1分程度続けることができたら、合格です。
巻き舌が続かなかった方は、舌の筋肉が弱くなり動かしにくくなっています。まっすぐ90度に舌を出したりひっこめたりするトレーニングをしてみましょう。なれないうちは、フェイスラインの耳の下周辺が少し痛く感じるかもしれません。舌の筋肉がついてくると同じ回数続けても疲れなくなります。そして、巻き舌ができる長さも長くなっているはずです。
声の高さや、話す速さ、滑舌のコントロールは、ご自身では変わったことを認識しづらいスキルです。だからこそ、まずは自分が人前で話す様子をスマホなどで録画しておくと良いでしょう。そして、今回お伝えしたトレーニングを続けたのち、再度録画をし直します。Before・Afterの変化を記録しておくのです。自分で自分の録画映像を見るのは恥ずかしいものですが、明らかに変わった姿に成長した自分を褒めたくなるはずですよ。
こうした一つひとつの積み重ねで、人前で話す自信をつけていくのです。
次回は「声だけじゃない。自分の立てる音すべてが相手の印象につながる」ことについてお伝えします。
写真/Canva
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この記事を書いた人
- 「好きや得意」を仕事に――新しい働き方、自分らしい働き方を目指すバブル(の香りを少し知ってる)、ミレニアム、Z世代の女性3人の編集部です。これからは仕事の対価として給与をもらうだけでなく「自分の価値をお金に変える」という、「こんなことがあったらいいな!」を実現するためのナレッジを発信していきます。
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