AI 時代の伝わる文章力「プロンプト思考」効率重視のビジネスの場で「丁寧さ」が求められる理由とは?プロンプト思考の4つの原則
AI 時代にスムーズに AI を使いこなすには取りこぼしなく伝える「プロンプト思考」が必要です。しかし、現代の日本ではコミュニケーションが省略化されています。そこで「プロンプト思考」を身につけるための 4 つの原則を提案したいと思います。
プロフィール
インタビュアー、スタートアップ広報中村優子
目次
AI 時代には「プロンプト思考」が必要
AI は自分の身近な人間とは違って融通が利かないので、コミュニケーションにはギャップが生まれます。そうした AI から自分のほしい情報を的確に引き出すために渡すメッセージ(命令や質問)がプロンプトで、AI の特性を理解した上で使いこなす思考を「プロンプト思考」と呼びます。なぜ AI 時代に「プロンプト思考」が必要なのか、については前回の記事に書きました。
「プロンプト思考」といっても、その本質は私たち人間同士のコミュニケーションと変わりません。それでも注目されるのは、AI は「阿吽の呼吸」とか「察する」というような高度なコミュニケーションがとれないことを前提とする必要があるからです。
「プロンプト思考」のできる人が大切にしていること
「プロンプト思考」ができる人は、言葉を扱うことが上手です。言葉を上手に扱えると、相手から自分のほしい情報を的確に引き出したり、期待通りに動かしたりできます。その人の人間性とか力関係というものを除けば、ここでポイントになるのは、自分の求めていることを的確に相手に伝えられるかどうか、ということです。
「プロンプト思考」のできる人が大切にしていること、それは 4 つの原則です。その原則を理解するために、前回紹介した例を使って、「プロンプト思考」がないとどのような問題がおきるのか考えてみましょう。
「プロンプト思考」のない人ができていないこと
前回の記事で例として使った、料理のレシピ作りを再び取り上げます。
腹ペコ小学生たちのために、急いで食事を作らなければいけません。買い物へ行く時間がないので、使える食材は家にあるものだけです。
プロンプト思考がない場合、以下のようになります。
プロンプト情報とは「前提」と「制約」
〈プロンプト思考がない場合〉
男の子が喜ぶ簡単な料理のレシピを教えて
ChatGPT はミニピザのレシピを教えてくれましたが、ピザ生地やトマトソースがたまたまある、という家庭は少ないでしょう。すると「他のメニューを教えて」と何度も質問を繰り返すことになってしまいます。
そうこうしているうちにかえって手間がかかり「AI なんて役に立たない」と思うかもしれません。しかし、問題なのは AI ではなく、上手に使いこなせない人間の方なのです。
ここでの問題は、「前提」と「制約」に関する情報を伝えていないことです。「前提」や「制約」は、選択肢を絞り込むための条件です。これらがないと、選択肢が多すぎて選ぶのが難しくなります。
前提 | ・家にある食材のみ使用 ・5 人前 |
制約 | ・食べるのは小学 4 年生 ・調理時間は 5 分 ・ソーセージ1袋 ・卵 1 パック ・たまねぎ3個 ・にんじん1本 |
伝えるべきだった「前提」とは、買い物へ行く時間はなく、使える食材は家にあるものだけであることと 5 人前を作る、ということです。「制約」とは、食べる人の年齢層や人数、調理にかけられる時間、家にある食材や量などです。
「前提」と「制約」をプロンプトの情報として追加したものが、こちらです。
〈プロンプト思考がある場合〉
小学4年の男子が喜ぶ 5 分以内で作れるレシピを教えて。5 人分。冷蔵庫にあるのは、ソーセージ1袋、卵 1 パック、たまねぎ3個、にんじん1本。
プロンプトで質問するとき、「前提」と「制約」がないと選択肢が多くなりすぎてしまい、自分にとって最適な答えが返ってくる確率が下がります。自分のことを何でも知っているAI であれば良いのですが、現在の ChatGPT はそこまで理解してくれません。
「プロンプト思考」ができる人は言葉を丁寧に使う
買い物をお願いする時に「カレーの材料を買ってきて」だけだと、普通のカレーのつもりが、頼まれた夫はたまたまTVで見て食べたくなったキーマカレーの材料を買ってくるかもしれません。
問題なのは、「カレー」の意味を明確にしていないことです。「カレーといえば〇〇」の定義が双方で共有されていれば良いのですが、そうでない場合は、最初に明確にする必要があります。例えば、今日の夕食は、にんじんやジャガイモ、牛肉の入ったいつもの家のカレーを作ります、というように。つまり「丁寧に伝える」ことが必要になります。
認識のズレは、人間同士のコミュニケーションでもよくおきるのはご存じの通りです。相手が AI であっても同じ、というより、AI だからこそ余計にズレがおきがちだということは知っておいた方が良いでしょう。
ChatGPT は少し前にやりとりしたことは記憶できる仕組みなので、それを踏まえたコミュニケーションをとれますが、あなたの全てを理解した上で返してくれるほど記憶力が良いわけでも情報をもっているわけでもないのです。
「プロンプト思考」のための 4 つの原則
「プロンプト思考」を身につけるには、次の4つの原則を知って使いこなすことです。具体的には、「前提の設定」、「制約の明示」、「言葉の定義」、そして「目的からの逆算」です。
前提の設定
自分の目的をより具体的にします。例えば、子どもたちのために簡単に作れるレシピを手に入れる、という目的に対して、家にある食材だけで作れること、5 人前作ること、と付加した情報が前提です。
制約の明示
制約とは、選択肢を絞り込むための条件です。子どもの好きそうなレシピであれば何でも良いというわけではなく、調理時間、食べる人の好みなどを「制約」として伝えます。
また、家にある食材を使うためには、使用できる食材も具体的に伝える必要があります。
言葉の定義
言葉の意味を明確にすることで、AI とのコミュニケーションの齟齬を防ぎます。例えば、「カレー」という言葉が指すものを具体的に指定することで、AI が理解しやすくなります。
目的からの逆算
最終的に何を達成したいのか、その目的を明確に持ち、そこから逆算して問いを設定します。
単にレシピを教えて、と伝えるのではなく、目的を達成するための前提と制約を加え、言葉を厳密に定義したメッセージをプロンプトとして設定します。
これらの 4 つの原則を組み合わせて使うことで、「プロンプト思考」はより効果的になります。それぞれの要素は単体でも有用ですが、それらを組み合わせることで、AI とのコミュニケーションがよりスムーズになるのです。
「プロンプト思考」を身につけるのが難しい理由
現代の日本人は、コミュニケーションにおいてプロンプト思考が弱いと感じます。これは一つの仮説なのですが、LINE のようなスタンプや省略された言葉を使ったコミュニケーションが好まれる傾向があることが理由ではないかと考えています。こういったコミュニケーションは短時間での理解を可能にする素晴らしいものである一方で、負の面もあると思います。それは、簡単すぎるコミュニケーションに慣れてしまい、プロンプトを使ったコミュニケーションが面倒になりがちということです。
前回も書いたように、AI とのコミュニケーションは面倒です。でもその面倒なコミュニケーションを得意とする人たちもいるのです。それがシステムエンジニアです。
次回は、そんなシステムエンジニアが仕事の中でどんなコミュニケーションをとっているのかを紹介しながら、「プロンプト思考」の効果的な習得方法を具体的にお伝えします。
《前回の記事》
この記事を書いた人
- (おがさわらのりこ)都内ITベンチャー企業で働くITコンサルタント。20年以上のSEの経験を持つ。立命館大学理工学部情報学科卒。フルタイムの仕事と子育てを両立させながら、KIT虎ノ門大学院でビジネスを学び2016年に修了。2023年より、武蔵野大学で非常勤講師も務める。