教養

「がん5年生存率」は上がったのか、下がったのか? 新たに発表されたデータからわかること

ログインすると、この記事をストックできます。

厚労省が発表したがんの5年生存率

厚労省が発表した全国がん患者の「純生存率」ベースの5年生存率。従来データとの違いや正しい読み解き方を解説します。

厚生労働省から「2016年に新たにがんと診断された人の5年生存率」が公表され(2026年1月14日)、一斉にマスメディアによる報道がありました。大腸がんの5年生存率は67.8 %、膵臓癌が最も低く11.8%でした。がんに罹患している人だけでなく、自分ごととしてニュースなどでご覧になった方も多いかと思います。

「がんの5年生存率」と聞いて、「今までもニュースなどで見たことがある数字では?」と思われた方も多いでしょう。

実は今回の生存率は、これまで公表されてきたがんの5年生存率とは“中身が異なる”数字で、解釈に注意が必要です。どう受け止めたら良いのでしょうか?

今回の5年生存率、何が新しいのか?

最大のポイントは、日本全国のがん患者さんの“全体像”を表していることです。

2016年から、日本では「全国がん登録」という制度が始まりました。
これは、がん登録推進法に基づいて、全ての病院と都道府県が指定する診療所に対し、がん患者の情報の登録を義務付けた制度です。病院の規模や地域を問わず、がんと診断された人の全体像を国として把握する仕組みと言えます。

一方で、過去のニュースで目にしてきた5年生存率データの対象となっていたのは、特定の病院(「院内がん登録」と呼ばれる仕組みに対応するようになった「がん診療連携拠点病院」)に受診していた患者のみで、日本の全体像を反映していたとは言い切れないものでした。

したがって、今回公表された5年生存率は、

  • 2016年にがんと診断された
  • 日本全国の患者さんのほぼ全数を
  • 5年間きちんと追跡して

初めて算出された、「日本で特定の時期にがんと診断された人の現在地の全体像」を示しているのです。

もう一つの違いは、これまでの生存率は「相対生存率」、今回の生存率は「純生存率」が用いられている点です。専門的な用語なので、少し補足します。どちらも「がんがなかったら生きていたはずの人」をベースに考える点は共通しています。

「相対生存率」は、がん患者の生存率を、同じ性別・年齢・診断年の一般住民の期待生存率(生存確率)で割って算出する指標です。高齢者などはがんがなくても亡くなる可能性があるため、その「当たり前の死亡率」の影響を差し引く(補正する)ことで、がんが生存に与えた影響を浮き彫りにしようとする指標ですが、がん以外の死亡原因を排除しきれていないのが弱点。

一方で、「純生存率」は、がん以外の死亡がなかったと仮定して算出した生存率で、がんが対象集団の死亡にどれだけ影響したかを純粋に評価する指標です。

近年、国際的に純生存率に年齢補正をかけた「年齢補正純生存率」を用いるようになってきている、という事情が、今回の手法にも反映されているようです。

過去の数字と比べてはいけない

さて、今回のデータが出る前の旧来の“最新”の5年生存率は、2009~2011年にがんと診断された人の5年相対生存率で、男女計で64.1 %(男性62.0 %、女性66.9 %)でした。

代表的な部位で見ると、

・大腸がん:71.4 %
・肺がん:34.9 %
・胃がん:66.6 %

となります。

今回公表された、部位別の純生存率ベースでの5年生存率は、

・大腸がん:67.8 %
・肺がん:37.7 %
・胃がん:64.0 %

です。

これを見て、
「大腸がんや胃がんでは、生存率が下がったのでは?」
「医療は進歩しているはずなのに…」
と不安を感じた方もいるかもしれません。

しかし、前述のように、そもそも生存率の定義も母集団も異なっているので、過去の数字と比較するのは不適切なのです。

実態としては、がん治療は近年どんどん進化して生存率も改善していますので、不安に思う必要は全くありません。

数字は「あなたの運命」ではありません

今回、どのメディアも、がん種(部位)による違いにフォーカスした報道の仕方をしています。

例えば、時事通信社の配信記事タイトルは、「全国がん患者の5年生存率を初公表 前立腺92%、膵臓11%―厚労省」でした。

こうした具体的な数値は、最近膵臓がんに罹患された患者さんやご家族にとっては、特に気にかかるものでしょう。

でも、今回発表されたデータにしても、過去発表されたデータにしても、がんの部位がどうであれステージがどうであれ、5年生存率は、「あなたがどうなるか」を予測する数字ではありません。

これらのデータは、あくまで過去、それもかなり昔に罹患された患者さんの集団が、5年後どの程度生存されていたかの話でしかなく、個人の未来を予測できるものではないからです。

当たり前の話ですが、同じがんの部位、ステージであっても、どの程度生存できるかは個人差が大きいです。

さらに、これらのデータには、あなたが今受けられている治療、そして未来に受けられるかもしれない治療は、反映されていません。拙著『後悔しないがんの病院と名医の探し方』の中でも、次のように論じています。

「余命に関してもう一つ大事な話が、いわゆる「5年生存率」とか「10年生存率」という数字は、あくまでも過去のデータでしかないということです。
(中略)
今がんに罹患した人は、今わかっている5年生存率より高い確率で5年後生きていられるでしょう。というのも、「最新」のデータは、2009-2011年にがんに罹患して治療してきた人たちを追って出てきた結果に基づいているのですが、今罹患した人たちは、もっと進化したがん治療を享受できるからです。」

ということで、今回のニュースは、統計的により精度の高い全体像が見えるようになったという程度、くらいの受け止めで良いのではないかと思います。

この記事を書いた人

鈴木英介
鈴木英介医療ジャーナリスト
1969年生まれ 千葉県野田市出身。
株式会社メディカル・インサイト/株式会社イシュラン 代表取締役。東京大学経済学部、ダートマス大学経営大学院卒(MBA)。住友電気工業、ボストンコンサルティンググループ、ヤンセンファーマを経て、2009年に独立。

ログインすると、この記事をストックできます。

この記事をシェアする
  • LINEアイコン
  • Twitterアイコン
  • Facebookアイコン