新米が出回っても高値は続く。「ゲリラ炊飯」など米作りをエンタメ化する集団とは?

琵琶湖の最北端に位置し、住人の多くが兼業農家の長浜市旧西浅井町で、『Rice is comedy(米づくりは喜劇だ)』をコンセプトにユニークな活動を展開する兼業農家ユニット「ONE SLASH(ワンスラッシュ)」があります。
少子高齢化による人口不足、後継者不足といったネガティブな課題も多い地方において、地域を盛り上げ活性させるには?自己実現するには?そんな問いを「ONE SLASH(ワンスラッシュ)」代表の清水広行さんに伺いました。
県の農家の8割が兼業農家という滋賀県。琵琶湖の豊かな水源を活かし米作りが盛んな一方で、後継者不足や耕作放棄地の増加といった課題も多い。
「農家は儲からない」「農家はキツイ、汚い、儲からない」そんな言葉を物ともせず、「ONE SLASH(ワンスラッシュ)」はお米作りの全てをエンタメにする活動を行っています。
お米に映画を見せて育てる映画米。米作りをコミカルにYoutubeで発信。田植え機など機械に乗っての農業体験は子供達に人気を集め、ゲリラ炊飯という名の炊き立てのおにぎりを振る舞うイベントは地域内外のコミュニケーションの場となっています。
お米作り事業のほかにも、メンバー一人ひとりの得意分野を活かし、アパレル、建築、不動産事業を展開し、活動の場を広げています。
目次
ネガティブこそビジネスの種
家業を継ぐためにUターンした滋賀県旧西浅井町。清水さんがかつて大好きだった村の祭に数十年ぶりに参加すると、その内容は当時の賑わいから一変。屋台はゼロ、楽しみだった神輿も「雨が降りそうだから神輿はやめようか」と大人たちが相談しているような活気のない状況になっていました。
活気がないのは祭りに限った話ではありません。実際、長浜市の統計によると、1990年時点での旧西浅井町(2010年に長浜市に編入)の人口は5,176人でしたが、2022年には3,618人と約3割も減少しています。
これは農業従事者の高齢化と後継者不足が進んだことや、耕作放棄地の増加、Uターンしようにも、長浜市に居住しながら勤務できる企業が十分に立地していないなどの背景があります。「農家は儲からない」と大人たちが口にし、地域全体がネガティブなムードで溢れていました。

「こんな状態ではだれも農家を継ぎたいと思うはずがない。ましてや将来、子供たちが戻って来たいと思うわけがない」と圧倒的な危機感を抱いた清水広行さんは、ネガティブムードに包まれた故郷をもう一度再生することを誓いました。
「ネガティブは課題解決の余地があるということ。ネガティブはビジネスの種なんです」そう話す清水さんがまず最初に気づいたのは他でもない、地域の大人のネガティブムードこそが地域の課題であるということ。
メンバーとお米作り事業計画について議論を重ねる中、ひとつの結論に至ります。「お客様目線でサービスを考えることが多いと思うんですが、自分たちが面白いのが1番やと思ったんです。僕らが求めてるものを考えたらエンタメに行き着いた。そこに共鳴してくれる人が来てくれればいいと」
お米作りは様々な苦労が伴うが、長い目で見れば楽しいもの。それは喜劇王チャップリンの言葉「人生は喜劇だ」に通じるものがあり、コンセプトは「ライスイズコメディ」に決まりました。「『面白い』は様々な垣根を突破してしまうと感じていますし、利益に繋がっています」
『面白い』で集客できるのはなぜなのか。
マーケティング思考で買い手の気持ちを読む
10歳でスノーボードに出会い、22歳でカナダに渡り、怪我を機に選手を引退。その後地元に戻り「経営を学びたい」という意図で会社員を7年経験してから、家業であった建設業を継ぐ。そんな異色の経歴を持つ清水さん。

マーケティング思考でエンターテイメント精神溢れる活動原点は清水さん自身の子どもの頃に遡ります。
中学生の頃、トレーディングカードや洋服などを地域に流行らせ、人気のピークで欲しい人に販売したり、職業体験では「道の駅」で、なかなか売れない地元野菜を売るべく、体操服のまま国道沿いに立ち、のぼり旗を降るという行動で半日売れなかった野菜は完売。買い手の気持ちを動かして売るしくみを作り出していたといいます。
「『面白そう』は人を集めます。人が集まると、繋がってビジネスが生まれます」
人が集まり、繋がり続けるためにお米が一役買っていると言います。「お米は強力なコミュニケーションツールなんです」
同級生を集め、得意のスキルとノウハウを持ち寄り事業を展開
帰国後、社会人経験ゼロで家業を潰してしまわないために「経営」を学びたい。そんな想いで一般企業に就職した清水さん。ですが、そこで働く「社会人たち」に衝撃を受けます。
「僕は好きなこと(スノーボード)しかしてこなかったので、そうじゃない人たちが大勢いることに『なんちゅう世界や』って思ったんです」
生活のため、お金のためだけに働く人たちを見て疑問だったと言います。
そんな現実を目の当たりにしたからこそ、ONE SLASHを結成後は、メンバー全員に「何をやりたいのか?」を聞き出しました。
みんな小さな頃は持っていた夢。なぜそれをやらないのか深ぼっていくと、お金だったり、気持ちだったりさまざまな背景がありました。ですが、一つ一つ課題を潰して考えていくと、「なんだできるじゃないか」と気づいたといいます。
そして、メンバー一人ひとりの得意分野で、個別の事業計画書を作成。完成した事業計画書を起業塾の先生に見てもらうと、業種の幅が広すぎて理解してもらえなかったほど。
ですが、当時描いた計画はすでにすべて達成しているといいます。
例えば、メンバーの水上さんを代表とする不動産事業部では、購入や売却、賃貸だけでなく、地域との関係作りなどサポートを行う一方、麻雀好きが高じて、自身が管理する物件に雀荘をオープンするなど活動の幅は広がります。
他にもメンバーの田中さんは長年のアパレル経験を活かし、アパレルショップをオープン。セレクトアイテムのみならず、滋賀県の柿渋染の老舗店とコラボしたオリジナル商品の制作なども行っています。
好きなことで収益を出すには?
とはいえ、何もかも好きなことを思いつきだけで進めているわけではありません。清水さんも、「経験がないことを0から始めるのは危険」といいます。
だからこそ、うまく行っているケースを真似て、成功している人にその方法を聞くことが大切です。質問することを躊躇する人も多いといいますが、清水さんは出会った経営者に「失敗したところはどこですか?」「成功要因ってなんですか?」など切り込んだ質問をして、良いと思うものは全て吸収しビジネスに反映させていくのだといいます。
それと並行して、普段の生活の中で困りごとや、会う人会う人に聞いた話など、たくさんの情報をインプット。清水さんの頭の中には、たくさんのアイデアや成功や失敗事例が蓄積されていきます。
するとある時、インプットしたアイデアや事例と、普段から考えている「やりたいこと」「気になること」の点が繋がる瞬間があると言います。「あ!」と気づいたその瞬間がまさに収益が出るポイントであり、頭の中でプランができあがるといいます。
やりたいことと蓄積されたアイデアを掛け合わせ、ビジネスモデルを設計しては実行を繰り返し、清水さんは好きなことで収益を出すことができているのです。
自分らしく働きつづけるために、好きな環境に身を置く
清水さん曰く「都心は情報が多すぎて、いらん情報が入ってくる」
そんな状況が続くと嘘が増え、感度も鈍り、やりたくないものもやりたくないと言えなくなるのではないかと懸念しています。
確かに、ありとあらゆる情報や広告が、そこらじゅうに溢れ、「これが正解だ」「これを買えば幸せになれる」と訴えかけてくる都心で、私たちが本当に自分のありたい姿や「自分らしく」いられているかというと疑問が残ります。
清水さんは自然豊かな地元で暮らすことで「ナチュラルに生きていけるから感度も上がる」といいます。必要な情報はどこにいても、どこからでも取りに行ける時代。だからこそ、どんな場所に身を置き、どんな情報に触れて生きていきたいのか、主体的に考える必要があるのかもしれません。
文/三上ゆき
関連記事
この記事を書いた人

- 「好きや得意」を仕事に――新しい働き方、自分らしい働き方を目指すバブル(の香りを少し知ってる)、ミレニアム、Z世代の女性3人の編集部です。これからは仕事の対価として給与をもらうだけでなく「自分の価値をお金に変える」という、「こんなことがあったらいいな!」を実現するためのナレッジを発信していきます。