ChatGPTを使いこなすにはたった4つのことを覚えるだけでいい? 「プロンプト思考」を身につけよう。
エンジニアの大原則「目的からの逆算」「前提の設定」「制約の明示」「言葉の定義」の4つの原則を意識すれば、誰でも「プロンプト思考」を磨いて自分のものにできます。ChatGPTを使ってこれらの原則をより深く理解し、実践する方法を紹介します。
目次
プロンプトのテンプレに頼りすぎると応用がきかなくなる
ChatGPTを使った仕事の効率化方法が増えてきました。特に、プロンプトのテンプレートは注目の的です。プロンプトのテンプレートを使えば、AIに対して「具体的かつ正確な情報を最短で伝える」ことができるので非常に仕事の効率が良くなります。
しかし、テンプレートに頼りすぎると、いざというときの応用がききません。重要なことは、Howをたくさん知って使いこなすことではなく、「目的からの逆算」「前提の設定」「制約の明示」「言葉の定義」という4つの原則を日常的に使いこなすことです。そうすれば、テンプレートのような型を忘れても自分で考えて伝えることができます。
AI時代に人と差別化をはかりたいのであれば、皆さんがやるべきことは、自分で解決策を考えられるように「プロンプト思考」を身につけることです。そうすれば、いろんな場面で応用が効かせることができるのです。
ではさっそく、皆さんの仕事をする中で、ChatGPTを使って4つの原則をより使いこなすための方法をご紹介します。
例として使うのは、前回と同様に部下への作業指示をするシチュエーションです。
「目的からの逆算」を活用する
例えば、あるプロジェクトの報告書を作成する場面を想定します。このとき、ChatGPTに具体的な質問を投げかけることで、必要な手順や考慮点を洗い出すことができます。
あなたはいま「現在稼働中のプロジェクトについて状況と今後の見通しを判断できる報告書を月曜日の昼までに部長へ提出すること」というミッションを持っているとします。
そして、この仕事の一部を部下に任せようとしています。
「目的からの逆算」という原則では、目的を達成するための手順をゴールから逆に辿って明らかにしていきますが、このとき考えるべき要素はたくさんあります。
何を考えるべきか分からなくなったら、ChatGPTにこう質問してみてください。
目的は「現在稼働中のプロジェクトについて状況と今後の見通しを判断できる報告書を月曜日の昼までに部長へ提出すること」です。
一部の作業を部下に任せますが、このときスケジュールや段取り上、考慮すべきことは何ですか?
すると、こんな答えが返ってきます。
例えばこれを見ると、部下の作成物を途中でチェックするタイミングを設けたり、レビューの時間を考慮しなければいけないことに気づきます。ChatGPTを使うと自分の経験則だけでは見落としがちなことを防ぐことができるので有効です。
こうして何度か使っているうちに、ChatGPTを使わなくても気にしなければいけない点を自分で抑えられるようになるでしょう。
「前提」の確認と共有
前提とは、コミュニケーションをとる者同士が理解し合うための共通理解のことでした。部下に指示を出すときは、部下が当然知っておくべき情報を適切なタイミングで正確に伝える必要があります。
前提を洗い出す上で難しいのは、伝える側はよく知っているがゆえに、相手が知らないこと、知っておくべきことを正しく把握しきれない、ということです。そのため、なんとなく思いついたことを伝えるに留まってしまい、結果的に情報が足りなかった、ということがよくあります。
ここでも、ChatGPTを活用しましょう。
先の目的を達成するために、考慮すべき前提は何ですか?
すると、以下のような回答が返ってきます。
前回の記事で紹介した前提は、この中の一部にすぎません。部下との間で既にある程度の情報が共有されているのであれば、ここにあるすべてを考慮する必要はないでしょう。
それでも、こうした情報は見落としを防ぐのに有効ですし、慣れてくれば無意識にこういった観点で部下に指示を出すことができるようになるはずです。
「制約」を明確にする
制約とは、使うリソース(人、時間、予算など)の限界や条件のことでした。前提と同じく、慣れないと何が制約なのか、どう考慮すべきなのか分からないかもしれません。
そこで、ChatGPTを活用します。
先の目的を達成するために考慮すべき制約(人、モノ、カネなどの条件)は何ですか?
すると、こんな回答が返ってきます。
制約の考え方は、企業によって、仕事内容によって異なるので、ここで挙げた全てがいつも当てはまるとは限りません。それでも、見落としをチェックするには十分に使えるのではないでしょうか?
例えば、「情報アクセス」はわりと見落としがちです。作業をお願いした部下は、そもそもプロジェクトの情報を見る権限を持っていないかもしれない、といった単純なことですら、指示する側は気づいていないこともあるからです。そうなると、部下から権限をつけてくれるよう依頼され、対応が終わったら連絡して・・というムダな時間を使うことになってしまいます。
「言葉」の定義を確認する
そして最後に、「言葉の定義」です。
ここでも、ChatGPTを使ってみましょう。
先の目的を達成するために、部下との間であらためて定義しておくべき用語は何ですか?
今回の記事を書くにあたり、ChatGPTを実際に使ってみたわけですが、中でも一番驚いたのがこちらの回答でした。
ここに挙げられた用語はどれも、自分の想定とは違う意味合いで相手が受け止める可能性がある、つまり誤解されかねない用語ということです。これは自分で思っていた以上に多くて、いかに自分が無意識に言葉を使っているかということに気づかされる良い機会にもなりました。
例えば「提出してください」という依頼だと、メールに添付するのか、ファイルサーバに置くのか、印刷するのか・・分からないので、部下が勝手に判断するか、質問にくるだろうと想像できます。何れにせよ、ムダな時間を使うことになりそうです。
こうやって、言葉の定義をしっかりすることは重要だと頭では分かっていても、コミュニケーションをとる上ではついつい面倒で省いてしまいがちです。
でも、この面倒さを受け入れることができるかどうか、がプロジェクト思考を鍛える上でのポイントになるでしょう。
慣れてくれば、コミュニケーションをとりながら、息を吸うように言葉の定義が自然と出てくるようになります。
仕事のあらゆる場面で「プロンプト思考」は鍛えられる
今回は部下への作業指示というシチュエーションでプロンプト思考を鍛える具体的な方法を紹介しました。
他にも、例えば次のような場面でもプロンプト思考を鍛えることができます。
- 会議の準備(会議の目的とゴールの設定、参加者の選定や段取りづくりなど)
- タスクの計画作成(仕事の目的に合わせて段取りを設計し、優先順位をつけるなど)
- 問題解決のアプローチを考える(達成すべきことの明確化や現実的な手段の検討など)
- チーム内のコミュニケーション(コミュニケーションの目的に合わせて、対応策を変えるなど)
こうしたシチュエーションに対して、もれなく前提や制約を教えてくれるお手軽なテンプレートがあれば便利ですよね。そう思えるようになったら、もうすでにプロンプト思考の重要性を理解しているも同然です。
考えるべき観点は、ここまでにお伝えしてきました。
あとは皆さん自身で、自分なりのテンプレートを作ってみてください。そうすれば、自分自身だけでなく、ご自身のチームの効率も上げることができるはずです。
AI時代に人と「差」をつけたいなら、「プロンプト思考」
多くの人は、面倒なことを避けたがるので、簡単に問題を解決できるHowに飛びつきがちです。でもAI時代に求められるのは、たくさんのHowを知っているだけでなく、ChatGPTのようなツールをうまく使いこなして解決に導ける人です。
そのためには、相手がAIであれ、人間であれ、具体的かつ正確な情報を最短で伝えることが重要になってきます。最初は面倒かもしれません。でもChatGPTを相手に練習を重ねるうちに、気づいたらChatGPTを使わなくても自然の4つの原則が使いこなせるようになっているはずです。
「プロンプト思考」とは、融通の利かないシステムを相手に、具体的かつ正確な情報を最短で伝えるための考え方です。是非「プロンプト思考」を手に入れて、いち早くAI時代に求められる人材になりましょう。
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この記事を書いた人
- (おがさわらのりこ)都内ITベンチャー企業で働くITコンサルタント。20年以上のSEの経験を持つ。立命館大学理工学部情報学科卒。フルタイムの仕事と子育てを両立させながら、KIT虎ノ門大学院でビジネスを学び2016年に修了。2023年より、武蔵野大学で非常勤講師も務める。