「できるだけ早めに仕上げて!」 こんな仕事の頼み方がコミュニケーションエラーを起こす!?
職場やビジネスの場で経験するコミュニケーションエラー。なぜ誤解が生まれるのか? それは「言葉の定義」を共有できていないからかもしれません。融通の効かないシステムを相手にしているエンジニアの「プロンプト思考」に学ぶ令和の文 […]
職場やビジネスの場で経験するコミュニケーションエラー。なぜ誤解が生まれるのか? それは「言葉の定義」を共有できていないからかもしれません。融通の効かないシステムを相手にしているエンジニアの「プロンプト思考」に学ぶ令和の文章術とは?
目次
職場でコミュニケーションエラーが起こりやすい原因
こんな経験はありませんか? 例えば「できるだけ早めに仕上げて」と部下に仕事をお願いしたら、翌日の昼には受け取れると期待していたのに、三日経っても音沙汰なし・・。「もっと生産性を上げてください」と発注先にクレームをいれたら、単なるスピードUPと解釈されて恐ろしく品質の悪い成果物が出てくる。
一体、何がおきているのでしょうか?
「早めに」とお願いした人は本日中という意味で伝えたのかもしれませんが、それを言葉として相手に伝えていないので、受け手が勝手に解釈してギャップが生まれてしまいます。また、「生産性」とは本来、単にスピードを上げるだけでなく品質も伴わなければ意味がありません。それでも、相手によっては誤解されてしまう可能性のある言葉なので注意して使う必要があります。
日常ではめったにおきないのに仕事ではわりとよくある。この違いはなんでしょうか?
それは、共有する情報量の違い、です。
家族や近しい関係であれば、相手の言葉が少々足りなくても、ある程度、相手の意図を補完することができます。例えば「我が家のカレーといえば、ビーフカレー」という家族全員の暗黙の了解があれば、「カレーの材料買ってきて」と伝えて、夫や子供がチキンを買ってくることは(滅多に)ありません。
でも、仕事相手だとそうはいきません。何カレーをどんなプロセスで作るのか?というコンセンサスをきっちりとる必要があります。そして、ITエンジニアたちが相手にしているシステムはそれ以上に手強いのです。
システムとのコミュニケーションをお手本にする
ここで、アプリ開発のエンジニアの頭の中を覗いてみます。
例えば、料理名を入力すると、必要な材料が出てくるアプリを作るケースです。
カレーには多くのバリエーションがありますが、利用者の方は「バターチキンカレー」や「ほうれん草とモッツアレラチーズのココナッツカレー」といちいち検索ワードに指定するのは面倒なので、「カレー」というざっくりとした言葉を使いたがります。
こんなとき、融通のきかないシステムを相手にするITエンジニアは以下のように頭の中で整理しています
<ITエンジニアの頭の中>
メニュー名から材料を表示するといっても、カレーにもいろんなカレーがある。牛肉とじゃがいもと表示させたいところだけど、キーマカレーのレシピが知りたいユーザーからは「使えないアプリ」の烙印を押されてしまうかもしれない。でも「カレー」3文字の曖昧な検索ワードではシステムが何を答えたらいいかわからないから、カレーの種類をこちらから提示して具体的なメニューを選んでもらおう。
1. 利用者が「カレー」と検索
2. アプリ画面にカレーの種類を選択肢として表示(牛カレー・バターチキンカレー・キーマカレーなど)
3. 利用者が「キーマカレー」を選択
4. アプリ画面に「キーマカレー」の食材を表示
どうでしょう、システムとのコミュニケーションは非常に丁寧に行われていることが分かると思います。
こうしてみると、当たり前のことに思えるかもしれません。でも、私たちは日常を過ごす中で一つ一つの言葉について、あらためて考えているでしょうか?きっと、なんとなく使っても十分に相手に伝わるコミュニケーションが成立していると思います。
カレーとは何か? カレーを作るとは何か? といった、普段のコミュニケーションの中では考えることのないようなことまで、厳密に定義しようとする、これがプロンプト思考のもう一つの原則である「言葉の定義」です。
「プロンプト思考」が身につくとできること
プロンプト思考の4つの原則を使いこなすITエンジニアの頭の中を見て頂いたことで、プロンプト思考を仕事で使うとは具体的にどういったことなのか、少し分かって頂けたでしょうか。日々の仕事でプロンプト思考を駆使できるようになると、こんなこともできるようになります。
生産性UP
「プロンプト思考」があれば、前提や制約を明確に定義する癖がつきます。だから、作業の手順を明確にして無駄な作業を省いたり、エラー(間違い)を防いだりできるので、結果として作業効率が上がります。
問題解決力
「プロンプト思考」は、問題を明確に定義し、制約を理解し、目的に向かって逆算する能力を養います。だから、相手のニーズを正確に理解し、それに基づいたアクションがとれるようになるので、答えのない複雑な問題にも立ち向かえるようになります。
コミュニケーション力
「プロンプト思考」により、明確で効果的なコミュニケーションがとれるようになります。これにより、人間同士で発生しがちな認識の齟齬をなくし、活発なコラボレーションを促せるようになります。
リーダーシップ
「プロンプト思考」を身につけると、目的を明確に設定し、チームの努力を適切に指導し、プロジェクトを成功に導くことができます。だから、チームやプロジェクトのリーダーとしての役割を果たすことができます。
プロンプト思考に必要な4つの原則
システムを相手に仕事をするITエンジニアは、以下のプロンプト思考の4つの原則にそって仕事をしています。
目的からの逆算
前提の設定
制約の明治
言葉の定義
こうした思考が癖になっているITエンジニアが集まると、仕事の全てがプロンプト思考になるので、コミュニケーション上の誤解が大きく減るというメリットがあります。
「会議の資料、なるはやで準備して!」と依頼する代わりに、「明日の10時から始まる経理部との打ち合わせの資料を、参加者の全員にメールで共有しておいて」と言い換えるのです。ITエンジニアは、5W1Hを意識しながらコミュニケーションをとる人が多いかもしれません。
ちょっと理屈っぽい感じがして苦手だな、と思われましたか? でもこうしたコミュニケーションは、面倒なようでいて結局、効率が良いということも事実です。部下や取引先とのやりとりに課題を抱えている方は是非一度、相手がシステムだと思って丁寧に言葉を定義するところから始めてみてください。きっと効果が出るはずです。
次回は、プロンプト思考を皆さんの仕事や日常の中に取り入れる方法を、具体的な例を使ってご紹介します。
執筆/ITコンサルティング・小笠原紀子
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この記事を書いた人
- (おがさわらのりこ)都内ITベンチャー企業で働くITコンサルタント。20年以上のSEの経験を持つ。立命館大学理工学部情報学科卒。フルタイムの仕事と子育てを両立させながら、KIT虎ノ門大学院でビジネスを学び2016年に修了。2023年より、武蔵野大学で非常勤講師も務める。