“筋肉”を趣味からビジネスに転換

「会社辞めたい」から「会社作った」は、自分らしい仕事に出会うための通過点
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AKIHITO

ALLOUT代表。株式会社スマイルアカデミーCOO。
大学卒業後、株式会社リクルートを経て、株式会社スマイルアカデミーを設立。人材系のビジネスなどを経て、現在、『Change the body. Change the world』―筋肉の力で世界を変える 日本の筋肉人口が増えればGDPが上がる―を信条とし、マッチョビジネスを転換。
主に、マッチョのメディアでのキャスティングやパーソナルトレーニング、マッチョカフェなどのイベントなどを行う。182㎝、74㎏。自慢の筋肉は大円筋。

Twitter @AkihitoAll
公式サイト https://allout-japan.com

サラリーマンに向かない人は実は多い。会社組織が苦手で「辞めたい一心」で起業した順序は若干ちぐはぐですが、自分らしさをビジネスに昇華させた人も実は多いのです。テレビでたびたび取り上げられ、「マッチョフリー素材」がTwitterでバズった筋肉紳士集団のAKIHITOさんは、いきなり会社を辞め、何をするかも決まっていないのに会社を設立したノープラン起業家です。最初の1年半は収益はおろか事業内容さえ定まらない地獄の日々。それでも会社を辞めたことに後悔はなく、むしろ「もっと早く辞めればよかった」と言います。株式会社スマイルアカデミー(以下スマイルアカデミー)のCEOであり、筋肉紳士集団「ALL OUT」の一員でもある、マッチョ起業家・AKIHITOさん。「やりたいことがなくてもなんとかなる」秘訣はどこにあるのか?を伺いました。

▼目次
「やりたいことを始める」「会社を辞める」順番って?

今でこそALL OUTは、全国で500人のマッチョが登録するチームになりましたが、会社を設立したときにはマッチョチーム構想はもとより、「これがやりたい」という確固たるものもありませんでした。

ただ、株式会社リクルートHRマーケティング(現株式会社リクルートジョブズ)に入社して5年、人材系の営業職をしている中で、仕事内容がなんとなく分かってしまい、仕事に対するモチベーションも営業成績も下がり、「自分はここにいなくてもいいんじゃないか」と思っていた時期だったので、まず会社を辞めると決め、「何かやりたいことができた時に、自由に動けるように会社を持とう」と思い、起業しました。

事業内容も決めずに会社を辞め、失業保険ももらわずに、とりあえず会社だけ作った。

字面だけ見たら、「まぁまぁアホやな」と思いますが、“考えついたら、即行動”というこのスピード感が、前の会社では味わえなかった、僕たちの求めているところだったんでしょう。
もちろん、これからに対しての不安もありました。頭の中は常に、半分は不安、もう半分は「やるしかない」「何でもやるぞ」という気持ち。だから逆に、“不安”は常に何かを生み出さなければいけないという、“活力”になっていたとも思います。
だからこそ、やりたいことに向き合うのは、早ければ早いほどいいと感じています。やはり若い方が圧倒的にフットワークが軽く、よりスピーディーに動けますから。僕自身も、なんとなく“会社員”が合っていないと感じていたので、もっと早く辞めていてもよかったと思っています。

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継続は大事。でも違ったら即ピボットする

会社の理念は、“スマイル メイク スマイル”。「ただお金を稼ぐだけの事業は気持ちが入らないし、やりたくない」「社会や世の中のためになって、関わる人みんなが笑顔になれるような会社を作りたい」という気持ちから、『スマイルアカデミー』としました。
その『スマイルアカデミー』で最初に行なった事業が、子どもの学童保育。ニュースや世間を見ていても、シングルマザーが子育てしながら仕事をすることが大変だと感じていたので、学童保育の中で僕たちができることはないかとやり始めましたが、ビジネス的にはまったくうまくいかず、すぐにリリース。
また、企業向けの福利厚生サービスのウェブサイトを立ち上げ、契約した社員が使えるようなサービスを作ったりもしてみましたが、こちらも結果が出ず。
ある程度ビジネスモデルとサービス単位を考えつつ、同時に顧客開拓。さらに動きながら、サービス事業の内容をどんどん改善する。それでもダメだと思ったら、すぐにリリースして新しい事業を展開、という形で、とにかく営業をかけ、人脈を広げていきました。
その当時、社員は一緒に会社を立ち上げた元同期とエンジニアの3人だけ。とにかく自分たちが動けば物事が進むので、約1年半はがむしゃらに動きました。もちろんその間は収益がなかったので、会社員時代に貯めてきた蓄えを切り崩しながらの生活。筋トレする者としてあるまじき、「食を削る」ことをしてしまったので、この時期、筋肉がずいぶん減ってしまいました。

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「筋肉がもったいない」がビジネスのヒントに

ただ、そんな中でも必ずジムに行って、体を動かしてリフレッシュすることは欠かしませんでした。僕は「全人類筋トレすべし」と思っているんですが、やはり体が元気だと心も元気なので、基本ポジティブでいられます。その状態がキープできると、仕事でしんどいことや辛いことがあっても、それほど重く受け止めずに受け流すことができる。
それに、仕事でどんなことがあっても、筋トレで自分を追い込むとそのキツさで悩みなんて飛んでしまって、一晩寝たらだいたい忘れてしまう。さらに体を動かしてぐっすり眠るから、翌日は頭もスッキリ。仕事に行き詰まっているときほど、頭をクリアな状態にキープすることが、問題解決につながる手段だと感じています。

僕はもともと体が弱く、小学校低学年までは小児喘息を患っていてほぼ毎週病院に駆け込むような、とにかく細いのがコンプレックスな子どもでした。それで体を鍛えるために陸上競技を始め、高校からは筋トレも取り入れることに。すると、体が強くなると同時に、めちゃくちゃポジティブになって、社交性もついてきました。だから、僕自身も筋トレやフィットネスの魅力、重要性を感じていて、それを多くの人に伝えたいという思いがどこかにあったんだと思います。

その思いがビジネスにつながったのは、ジムで出会ったあるトレーナーさんから誘われた、ボディビルコンテストでした。当時は趣味程度に筋トレをするレベルだったので、そういう大会があること自体知らなかった。だから出場を決めてから初めて、減量や体作りにしっかりと取り組みました。そして大会当日、20代、30代で体を作り込んだ“シュッとした”男性がたくさんいて、「こんなにカッコいい人がたくさんいるんだ」ということに衝撃を受けました。
そして、短期間とはいえ自分も本格的に体作りを体験したからこそ、せっかく時間やお金をかけてしっかりと体を作り上げているのに、その肉体を生かせる場所がこの大会以外にないことがとてももったいないと感じ、この肉体美を生かせる場所を作れないかと考えて、今の筋肉事業に思い至ったわけです。

「筋肉触り放題」の知られざる需要

ただ、それまで「筋肉ビジネス」というものが世の中にまったくなかったので、どうやったら世の中に受け入れられるか、筋肉はどうしたらもっと広まるかを、イベントの企画をしながら、本当に手探り状態で模索し続けました。
そんな中、福岡で『マッスルカフェ』という、「筋肉触り放題&熱狂し放題!」をコンセプトにした自社のイベントを開催。すると、想像以上に集客があり、実際に筋肉に触れたお客さんがめちゃくちゃ喜んでくれて、そのときに、「筋肉にはニーズがある」と改めて感じました。多くの人にとって、あれだけ作り上げた筋肉を見たり、触れたりする機会ってあまりありませんから。
そこで、東京でもマッスルカフェをしようとリリースをうったら、数時間でチケットが完売。その次の回もすぐに完売となり、徐々にクライアントのついたイベントを行えるようになりました。お客さんだけでなく、接客するメンバー、クライアントの3者すべてにとって満足度が高いイベントになってきていることに手応えを感じ、今はそれを少しずつ広めていっている状態です。

とはいえ、「筋肉ビジネス」を始めることには、懐疑的、批判的な意見もありました。ただ、僕は全然そういうのを気にしないタイプ。誰かに「世の中を変えるには、もう狂気の沙汰ぐらいじゃないとできない」と言われたのですが、それくらいの勢い、気持ち、気概で、24時間、常に「筋肉」のことばかり考え続けていました。
世間の目が変わったのは、メディアにとりあげられてから。営業に行っても、「面白いことを展開しているね」と言われるなど反応があり、筋肉を活用してインパクトのあるプロモーションが打てるという点で、興味を持ってくれる会社が多くなってきました。

そしてスマイルアカデミーを設立して約10年。現在では、マッチョ写真を無料でダウンロードできるマッチョフリー素材や、各地のイベントやメディアの仕事など、マッチョなメンバーの活動機械を創出するキャスティング事業など、ALL OUTとしてのイベントや企画開催をはじめ、企業向けのプロモーションイベントやウェブ上でのマッチョ活用の企画を提案するまでになりました。

ただ、せっかくマッスルカフェが軌道に乗り始めたところで、まさかコロナの流行。今まで収益が多かったイベント系のキャスティングと、リアルイベント関係がストップ状態になってしまいましたが、CMやMV、YouTuberからの出演依頼など、映像関係をはじめ、幅広い案件の依頼をいただくようにもなりました。
また、コロナ禍でも体を鍛えたいという需要はありながら、スポーツクラブには行きづらいという方が増えたことにより、福岡で8店舗展開しているパーソナルトレーニングジムの利用者が増加。コロナ禍でも筋肉はきちんと収益をあげられるビジネスモデルに成長しました。

ポテンシャルに違いはない。何が違うのか?

あの地獄の1年半。やりたいことが見つからず、進む道が定まらない中、紆余曲折を経て灯台下暗しともいえる、自分がずっと続けてきた筋トレをビジネスにできた。あの時期があるからこそ、改めて筋肉に出会ったときに、「これだ!」と確信を持つことができた。だから今は本当に毎日が楽しくて、好きなことを仕事にできたという実感があり、完全に僕の天職だと思っています。

もちろん物理的、時間的にキツイと感じることは多々あります。例えば、マッチョフリー素材の撮影は、1枚1枚体をパンプアップ(力ませてポージングする)ので、1日行うだけでヘロヘロになる。でも、その撮影後にそのフリー素材をアップしたり、事務作業することを嫌だと思ったことはありません。

なぜなら、自分がやりたいことの一環だから。きっと会社員時代は、“やらされている感”がすごく強かったので、気持ちが入らなかった。「その役目は自分じゃなくてもいいんじゃないか」という気持ちがどこかにあった。だからやる気が起こらず、成績につながらなかったのだと思います。

人のポテンシャルは気持ちで大きく左右されると考えていて、正直、仕事ができる人とできない人の違いは、それほど大きくないと僕は思っています。では、違いは何か。そのことに対してどれだけ“情熱”を持って取り組めるか、その差なんだと思います。
会社員時代には、仕事に対しての情熱が足りず、逆に今はそれが常に持てている。
だから、同じような事務作業でも以前はイヤイヤだったけれど、今は事業を円滑に進める手段だと思えるので、苦にならない。しかも、今、うちのオフィスはジム仕様になっているので、きっちりしたオフィスエリアがありません。だから、PC作業で疲れたらちょっと横に移動して筋トレしたり、筋トレのインターバルの間にZoom会議したり。そういう意味では筋トレや事務作業が生活の一部になって、当たり前にできる環境になっているのも、楽しく出来る一因なのかもしれません。

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会社員時代のトラウマ? だから絶対無理しない

うちの会社の方針は“無理をしない”。「筋トレで自分を追い込むトレーニー(トレーニングする人)なのに?」と思われるかもしれませんが、無理と追い込みは違います。追い込みは自分の体の状態を冷静に見極めて行いますが、無理は理由や道理がないのに行うので、能力以上の負荷が精神や肉体にかかってしまい、余裕がなくなってしまう。自分たちが楽しくないと、僕たちと関わるいろんな方々にも楽しんでもらえないと考えているので、精神的にキツイという状態は作らないようにしています。
例えば、うちの社員はほとんどがトレーナーで、お客さんをトレーニングするセッションの本数を上げれば売り上げが伸びるというシステムになっていますが、彼らには本数を増やすよりも、自分の成長を優先してほしいと言っています。
もちろん本数をこなした方が売り上げは増え、会社は安定しますが、売上金額を一番に置いてしまうと、自分たちが追い求めているものが分らなくなってしまう。だから常に、自分達がどういう事業をやるべきなのか、やりたいことは何なのかを考え、それを一番に置くようにしています。
もしかしたら“無理をしない”ことを方針に掲げたのは、会社員時代に売り上げに追われていた反動かもしれません。売り上げに関しては本当にシビアだったし、滅茶苦茶言われて詰められるし、そのために何かよく分らない入力作業を強いられることが多かった。「これ本当に意味があるの?」と思いながら仕事していた経験から、「無駄なことはやらない」というスタンスになったのでしょう。

運命的な職業との出会いをするために

好きなことがある人は、まずそのことをそのまま突き詰めていくといいと思います。さらに、それを仕事にしたいのであれば、その魅力や必要性を、より多くの人に知ってもらう、伝えるということを始めると、それがビジネスや事業につながっていくと思います。
僕も筋トレが好きで、その筋トレや筋肉の魅力を発信したい、伝えたいという思いが、こういう形になって広まってきていますから。
だから、やりたいこと、好きなことがある人は、それをどんどんやり進めていったらいいと思います。
まだ好きなことがみつからない人は、とにかくいろんなことをやるしかない。チャレンジを恐れず、いろんなことをやってみたり、いろんな人に会ってみる。そうすれば、すぐに答えはでなくても、やり続けた先に何かしら見えてくると僕は思います。

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